そこには、以下のような金大法院長との肉声が、その息遣いまで聞き取れるほど明瞭に記録されていた。

「今の状況をよくみて、もっとはっきり言えば、いま弾劾をしようとあのように騒いでいるのに、私が辞表を受理したといえば国会からどういう声を聞くだろうか」

「もう辞表受理提出、そういう法律的なものは別にして、私としてはいろんな影響というか、それを考えなければいけない。その中には政治的な状況も眺めなければならず」

「今日そのまま受理してしまえば、弾劾の話ができなくなるではないか。そのような非難を受けるのは非常に適切でない」

 大法院長が「大ウソつき」だということが世間にばれた瞬間だった。

国会に対しても偽証

 この暴露を受けて、韓国内では2つの批判が起こった。

 一つは、大法院長との会話をこっそり録音し、それを暴露した林部長判事に対する与党からの批判である。

 林氏はこっそり会話を録音したことについて与党の批判を受けると、「4月末から健康上の理由で何度も辞意を表明したが、拒否され続けた。大法院長との面談の席で辞表を出す理由をしっかり説明したかを確認し、大法院長の答えを聞きなおし、改めて説得するために録音した」と説明している。これまでのパワハラに近い金大法院長とのやり取りを踏まえれば、会話を録音したくなるのも理解できる。

 なにしろ、弾劾を主導した議員もまた、金大法院長が会長をしていたウリ法研究会の会員なのだ。進歩系の国会議員と裁判所幹部が、自分たちと違い判断をする判事を、法理を捻じ曲げてでも糾弾しようとしている。対抗するためには動かぬ証拠を押さえておかなければならないと判断することは十分合理性があると見るべきではないか。

 そしてもう一つは、当然、ウソをついていた金大法院長への野党や世論からの批判だ。法の番人の総元締めが堂々とウソをついたのだ。しかも国会への虚偽報告もしている。韓国では、大法院長に対しては、国会への偽証罪は適用が除外されているのだろうか。