「民主主義が勝利した」

 この2カ月半、トランプの声にそそのかされた暴徒たちがアメリカを転覆させるのを阻止したのは、民主主義のシステム(institution)だった。

 ホワイトハウス(連邦行政府)は陰謀論の巣窟と化したが、各州の行政府の職員たち(ととくにルールを重視する筋金入りの共和党系職員たち)は、政治家の圧力から選挙を守った。

 司法の立場はもっとはっきりしていた。トランプは任期中に234人の連邦判事を指名したが、どの裁判所もトランプ陣営の選挙不正の訴えを、「ゴシップの領域に過ぎず、真剣な訴えをなしていない」(アリゾナ州)、「民主的手続きへの信頼を傷つけることが目的の訴訟」(ミシガン州)、「裁判所は大統領を指名する場所ではない」(ウィスコンシン州)など、バッサリ切り捨てた。

 米軍制服組の最高機関である統合参謀本部も、大統領就任式直前に、憲法の遵守を全軍に命じた。こうしたルールを遵守する人々の努力によって、力ではなく、選挙による権力の移行が守られた。大統領就任式で、バイデンが「民主主義が勝利した」と宣言したのはそのためだ。

 これに対して、支持者たちに「連邦議事堂に行こう」「力を示さなくてはいけない」とけしかけたトランプが、司法の裁きにかけられる日は、そう遠くないだろう。さようなら、トランプ。

藤原朝子
学習院女子大学非常勤講師。国際政治ニュース解説者。慶應大学法学部政治学科卒。ロイター通信、フォーリン・アフェアーズ誌(日本語版)などを経て現職。米ドラマ『ハウス・オブ・カード/野望の階段』日本語監修なども務める。訳書に『米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ』『シフト――2035年、米国最高情報機関が予測する驚愕の未来』『撤退するアメリカと「無秩序」の世紀――そして世界の警察はいなくなった』(いずれもダイヤモンド社)など。

◎新潮社フォーサイトの関連記事
デービッド・アトキンソン「中小企業は消えるしかない」論に異議あり
「バイデン新政権」にのしかかる「民主政治の再生」と「中南米との関係再構築」
5年ぶり「朝鮮労働党大会」総括(3)異例の「降格」「抜擢」人事