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米大統領選でバイデン氏の支持者に語りかけるステイシー・エイブラムス(2020年11月2日、写真:AP/アフロ)

(文:渡邊裕子)

 1月5日の夜は、ほとんど寝られなかった。ジョージア州が選出する上院議員2名の決選投票の開票速報を追うため、テレビ・新聞、友人たちからのテキスト、Twitterなどに釘付けになっていたからだ。

 この2議席を共和党、民主党のどちらが取るかで上院(定数100)の支配政党が決まるとあって、多くの人が注目していた。ジョージアという南部の一州がこれほどまでに全米の、世界からの熱い注目を集めたことは、いまだかつてなかったのではないだろうか。

黒人抑圧の象徴たる地でつくられた歴史

 事前の予想では、共和党と民主党が1議席ずつ取るのではないかという説が強かった。つまり、49対51で、共和党が上院支配を維持するというシナリオだ。

 しかしいざ開票が始まると、民主党の2人の候補は予想以上に好調に票を伸ばし、いずれのレースも追いつき追い越せの大接戦になった。開票が進むにつれ、事前の見通し以上に黒人投票率が高かったこともわかってきた。よって、5日は予想以上に長い夜になった。

 最終的には、終盤に開票されたアトランタおよびその近郊の民主党支持層の票が2人の民主党候補を強く押し上げ、勝たせることになった。ジョージア州から民主党の上院議員が選出されたのは、1996年以来はじめてのことだ。

 上院では、50対50となれば、議長を務める副大統領が1票を投じることができる。つまり、実質的には50対51で民主党が多数派となり、2011年以来初めて、ホワイトハウスと上下院をすべて民主党が主導する「トリプルブルー政権」となった。

 当選した2人はいずれも新人。牧師のラファエル・ワーノックは、ジョージア州から選出された史上初の黒人上院議員となる。元ジャーナリストのジョン・オソフは、33歳のミレニアル世代議員(ジョー・バイデンが1973年に30歳で就任して以来、最も若い上院議員となる)で、こちらもジョージアから選出される史上初のユダヤ系上院議員だ。

 ジョージア州は、かつては奴隷解放に反対した南部連合のベースだった。その黒人抑圧の象徴たる地で、歴史がつくられた。ワーノックの勤める教会が、かつてマーティン・ルーサー・キングJr. が牧師を務めていた教会であるということも、偶然とはいえ、巡り合わせの不思議を感じる話だった。

ステイシー・エイブラムスの大きな貢献

 深夜、日付が6日に変わり、大手メディアがワーノックとオソフの勝利を予想し始めると、SNSやメディアの話題の中心は、ステイシー・エイブラムスにシフトした。

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