(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)

 世界の新型コロナウイルスの累計感染者数が1月10日、9000万人を超えた。感染力の強いウイルス変異種の確認も世界各地で相次いでいる。世界保健機関(WHO)は「変異ウイルスの出現により事態がさらに悪化する可能性がある」と警告を発している。

 変異種が最初に発見された英国では、変異種の広がりで入院患者数が急増していることから、ロンドンのカーン市長は1月8日、「制御不能だ」として「重大事態」を宣言した。

 日本でも再び緊急事態宣言が発令されたが、新規感染者数の増加を抑えることができず、全国の重症患者数は連日のように過去最高を更新している。

 筆者は感染症の専門家ではないが、呼吸器感染症は冬場の低温・乾燥状態の下では、人の往来を制限しても感染拡大の抑止は難しいのではないかと考えている。ウイルスが感染力を持つ時間が夏場に比べて格段に長くなる一方、鼻やのどにあって侵入したウイルスなどの異物を外に出す働きをしている「線毛」の働きが弱くなると言われているからである。そのため、仮に対策を強化したしても、春になるまでは新規感染者数が高止まりする状態が続く可能性がある。

分散している日本の医療リソース

 日本では「3密防止」の観点から、一般の国民は「行動変容」を迫られ、これになんとか対応してきた。増加したとはいえ、欧米諸国に比べて感染者、死者数とも格段に少ない状況が続いている。それにもかかわらず、「医療崩壊」を防止するために社会・経済活動を再び大幅に制限しなければならない事態に追い込まれてしまった。過去半世紀にわたり日本は甚大なパンデミック被害を受けなかったことから「日本は感染症対策が盤石である」との神話が成立していたが、その神話がもろくも崩壊しつつある。