2020年12月、福井県の製薬会社「小林化工」が製造した爪水虫治療薬に睡眠導入剤の成分が混入し、服用した150人以上が意識消失などの健康被害を訴え、2人が死亡した。
製造過程で減った治療薬の有効成分を補充しようとして、従業員が間違って睡眠導入剤の成分を混入させたという。
2つの成分の容器は大きさや形状が異なり、取り違えは通常あり得ないとして、会社は「重大な過失だ」と説明している。
小林化工は薬を自主回収しているが、問題は極めて重大である。
この事故は、事故発生の直接原因が「ヒューマンエラー」(詳細は後述する)であることなど、かつて国内外の人々に大きな衝撃を与えた東海村JCO臨界事故とよく似ている。
今回の事故は、単に医薬品の安全の問題でなく、世界を市場とする日本の工業製品すべてに対する世界の人々の信頼を失いかねない。
そういう観点からすると、今回の事故のメディアの扱いは小さすぎるのではないだろうか。
かつて、日本の社会や日本人は、外国人から高い評価を受けていた。
例えば、社会学者エズラ・ヴォーゲル氏が、著書『ジャパン・アズ・ナンバーワン:アメリカへの教訓』(Japan as Number One:Lessons for America)を発表したのは1979年である。
その中で、著者は「高い技術レベル、社員の会社に対する、また会社の社員に対する忠誠心、高い教育水準、質の高い官僚、低い犯罪率、世界中から学ぼうという姿勢――これらこそが、日本が強く豊かな社会でいられる基盤である」と日本を高く評価していた。
筆者は1983~84年にフランスに滞在していた。その折、地方を旅行中に、たまたま日本車に乗っているフランス人と出会った。
「日本の車は最高だ。自分は日本人が製造した車に乗りたいんだ」と彼が話していたのを今もよく覚えている。
その頃の外国人からみた日本人のイメージは、ルールや決まりをよく守る、約束の時間をよく守る、仕事が丁寧であるなどであった。
彼も同様な日本人のイメージを持っていたのであろう。また、当時の多くの日本人も、筆者もそうであるが、そのような日本人であることの自信と誇りを持っていた。
そして、日本は世界一安全な産業社会であるという信仰にも似た自信に満ちあふれていた時代でもあった。