埼玉県朝霞市の岡城。撮影/西股 総生(以下同)

(城郭・戦国史研究家:西股 総生)

意外に知らない「近所の城」

 城に興味をもった人はたいがい、まず全国の名城めぐりからはじめよう、と思い立ちます。書店に並んでいる城の入門書を読むにつけ、お城好き有名人のお話を聞くにつけ、全国の名城めぐりをおすすめされます。

 それは、そうでしょう。何せ、日本全国には何万もの城があるのですから。その中から、まず最初に訪れる城を自分で選ぶなんて、途方に暮れてしまいます。その点、名城と言われている城なら、ハズレを引く心配がありません。安心感が保証されています。

姫路城。一度は訪れたい名城中の名城ではあるが・・・。

 でも、いまのコロナ禍のような状況では、なかなか全国を自由に旅することもままならないですよね。もちろん、名城は逃げたりしませんから、状況が落ち着くまで待っていてもよいのですが、でも、せっかく城に興味をもったのなら、実際に歩いてみたいですよね。

 そんなあなたに朗報です。全国各地を旅行しなくとも、マイクロツーリズム的に城歩きを楽しむ方法が、あるのです。地元の城、ごく近場の城を歩いてみればよいのです。

京都府長岡京市の勝龍寺城。明智光秀・細川藤孝ゆかりの城は市街地の中にある。写真は外郭の土塁と空堀。

 日本全国には、ざっと4万~5万か所もの城がありますが、そのほとんど(9割以上)は、戦国時代に築かれた土造りの城。戦国の土の城には、壮麗な天守も、見上げるような石垣もありません。何も知らなければ、タダの山か雑木林。

 でも、よく考えてみましょう。戦国時代というのは、いつ敵が攻めてくるかもわからないような時代。だったら、タダの山や雑木林では、生き残れません。なので、戦国の土の城には、敵を防ぐための実戦的な仕組みが満載です。

 ただし、戦国の城は、険しい山の上に築かれていることも。廃城になって何百年も眠ったままですから、荒れ放題の山林になっていることも。そうした城は要注意。とくに、名城といわれている山城は人を拒む力が強いですから、山歩きに慣れていない人が興味本位で登ったりしたら、遭難してしまいます。

彦根城から見た佐和山城。佐和山城は石田三成の居城なので訪れてみたい人も多いけれど、ガチの山城。遭難事故も発生している。

 でも、大丈夫。戦国の城の中にも、行きやすくて、初心者でも安心して歩けるような城は、いくらでもあるからです。戦国の城には、平城や丘城もたくさんあって、公園化されているところも少なくありません。そうした城を選べばよいのです。

 たとえば、僕の住んでいる川崎市の隣、横浜市の北部には、茅ヶ崎城や小机城があって、僕の家から電車を乗り継げば1時間もかかりません。どちらの城も最寄り駅から歩いてすぐだし、公園になっていますから、普段着&スニーカーでお散歩OK。おまけに、土塁や堀もよく残っているのです。

横浜市の小机城。日産スタジアムの最寄り駅となっている横浜線小机駅から徒歩10分ほど。
小机城の巨大な空堀。城内は公園となっているので、普段着&スニーカーで散策できる。

 これなら、「都県をまたぐ移動は控えて下さい」という状況になっても、マイクロツーリズム的な城歩きが楽しめますよね。ちょっと探してみれば、こんな城は全国至る所にあります。それなのに、「名城めぐり」に目がくらんで、足元に面白い城があってもスルーなんて、もったいないと思いませんか?

 むしろ、全国名城めぐりがしにくい今こそ、身近にある戦国の城を歩いてみるチャンス! と考えてみてはいかがでしょう? 「名城」というブランドに囚われずに、城を歩いて楽しい、面白い、と感じることができるようになれば、その経験はきっと、全国名城めぐりを再開したときにも役に立つはずです。

 

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