平成のナンバーワンホストの少年時代

 渡氏は60代。ホストから足を洗い、現在は運送業のひとり親方をして暮らしている。しかし、今も彼が街に出る時には、革のコートに身を包み、ダンディなスーツ姿でキメている。身長が180センチほどあるので、ひと際人眼をひく男前である。ミナミの街を歩くと、若い人たちが「お疲れさまです」と頭を下げる。知らない人が見ると、ヤクザの地回りと間違われる。

*写真はイメージ

 彼の語り口は柔らかく、相手の話を聴く姿勢に慣れているように思える。だから、彼の個人史を聴き出す際には、筆者の質問回数が平素より多くなりがちであった。

 渡氏は大阪の近県に生まれた。実家は美容室を経営しており、兄妹は年が離れた姉が一人。この姉は成績優秀だった。しかし、彼は中二の頃からグレてしまい、不良グループとつるむうちに成績も急降下したようだ。結果、中学を卒業して定時制高校に進学した。

 16歳の頃にバイクを購入し、暴走行為の日々を過ごしていたが、自損事故を起こして半年間も入院するはめになった。おかげで、定時制高校には5年間在籍した。学生時代は、グレン隊グループの主要メンバーとして、連日、深夜喫茶に入り浸っていた。こうした店の常連になっていると、近隣のヤクザとも顔見知りになる。

 同じ時期、昼間は求人広告など扱う会社で働いていたが、定時制高校を卒業したらヤクザになるものだと本人も思っていたそうである。ところが、そのことを母親に伝えたら、泣いて懇願され、ヤクザへの道を断念した。すると、“内定”を貰っていたヤクザ組織の若い者5~6人からリンチを受け、腕と肋骨を数本折る重傷を負い、またまた病院に逆戻り。広告会社も半年ほど休む羽目になった。