初月給は1万5000円也
初めてフロアに足を踏み入れた時の感動を、今でも覚えているという。フロアの端からもう一方の端が見えないほどの広さ――200坪はあろうかという店内には、らせん階段で降りてゆく。店内には噴水がある。さらにグランドピアノがひと際目を引く。ステージでは5人編成のバンドが美声を披露している。若い渡氏にとっては、初めて目にする異世界であった。
新人ホストは、18時30分頃には店に出なくてはならない。そこからミーティング。売れっ子の先輩ホストが女性同伴で出勤してくるのは20時30分頃から。新人と売れないホストは、店の奥側に座って待っていないといけない。余りにも暇な毎日、「早く売れるようになりたい」と気は焦るが、こっちはズブの素人だから事はそうそううまく運ばない。悶々とした日々を過ごした。
日給500円、先輩の席に呼んでもらってヘルプをしたら1000円。最初にもらった月給は1万5000円だった。「あかん、お客ないと食えへん」と、渡氏はかなり焦った。ちなみに、求人広告の会社時代の給料は、月給12~13万円あったから、そのギャップに愕然とした。
2カ月ほど、低賃金で生き永らえながら「(売れない人たちは)みんなどないしてんのやろ」と思い、先輩らに聞いてみると、「ナイトで働くねん」とのこと。当時のナイトとは、深夜24時から朝の5時まで開いている飲み屋のことだった(現在のメンズパブのようなイメージ)。時給は800円だったので、日に4000円は稼げる。
ちなみにホストクラブは、20時から24時までの営業。それ以降、売れっ子の先輩らはナイトを開く。ここで、渡氏とツレの舎弟は働かせてもらった。自分らは、その先輩をアニキと呼んでいた。ナイトで先輩の店で働くことにより、カーネギーでもヘルプに付けてくれるようになったから、少しは生活が楽になってきた。当時は、実家から車で通勤していたため、寝る時間が少ないことには閉口したそうだが、若さで乗り切った。