お客とホストを超えた人間関係

 筆者が話を聞いた渡氏は、現在のホストの人たちのようなビジュアル系ではなかったようである。その生きざまの一端を聞いても、武闘派系であることがわかる。

 その後、30代半ばで、ナンバーワンホストとしてのチャンスをつかむ。時代は昭和から平成へと変わっていた。そして、彼は、その時にナンバーワンの座を与えてくれた姐さんに、いまも寄り添って誠心誠意尽くしている。筆者が驚いたことに、彼は姐さんの好きなカラオケの曲をメモ帳に記したものを常に携帯している。

 スナックでは、姐さんのリクエストに応じて、曲を入力する気の遣い様だ。お客とホストの関係を超えた、現在は風化しつつある人間味を感じた一幕であった。

 彼の現在の仕事は、毎朝早くから、夕方まで宅配便の荷物を配達する軽運送のひとり親方である。その運送会社の制服は、渡氏の余裕、貫禄、そして修羅場を潜り抜けたひとりの男の人生を覆い隠すには小さすぎるように、筆者には思えた。