それでもこれらは、政策に注目している官僚や政策コンサルタント的な視点です。一般の国民は、そのような細かな点を評価して菅内閣を支持しているのではないと思います。

 では支持率好調の理由は何なのでしょうか? ひと言で言えば、菅総理の「実直さ」に国民が好感をもっているということだと思うのです。菅総理はそのキャラクターも政治手法も、派手さはありませんが、極めて「正直」で「実直」というイメージが強い。口数は少なく、巧言令色のない、たたき上げの職人、という印象でしょう。そして「これが大事」と思った政策は、口先だけに終わらせず、着実にやり抜くという仕事師的なイメージがあります。そこが非常に好感を持たれているのではないかと思うのです。

『鬼滅の刃』のヘタレキャラ・我妻善逸が人気化した背景

 実は今、菅総理のような「正直」「実直」なキャラクターが好まれる時代になっている――私はそう感じています。私はこれを「正直の時代」と呼んでいるのですが、その時代の空気に菅総理はまさにフィットする人柄なのです。

「正直」がウケる時代になっているというのは、基本的には私の肌感覚によるものですが、それを裏付けるようなデータもあります。

 一つは、「我妻善逸」です。知らない人は「我妻善逸」と言われてもピンとこないかもしれませんが、彼は大人気漫画の『鬼滅の刃』に登場するキャラクターです。先ごろ、連載していた「週刊少年ジャンプ」で、『鬼滅の刃』のキャラクターの人気投票が行われました。そこで1位になったのが「我妻善逸」でした。

 この我妻善逸は、主人公ではありません。主人公・竈門炭次郎とともに「鬼退治」に当たる鬼殺隊のメンバーなのですが、結構情けない人物として描かれています。敵がくるとすぐに「怖い」などと言ってしまうヘタレキャラなのです。「ここで生き残っても結局死ぬわ」、「俺はもうすぐ死ぬ!」、「九分九厘死んだ」というようにすぐに「死ぬ」と言いたがる後ろ向きな性格です。

 30年前に少年ジャンプに夢中になった私の世代にしてみれば、たとえ偽善でも努力・友情・勝利が大事で、こういうキャラが人気投票でトップに来るのは想像しがたい現象なのですが、考えてみれば、格好つけることもなく、自分の心の声に正直なのが我妻善逸なのだと言えます。格好をつけたり虚勢を張ったりするよりも、素のキャラクターを見せる人物が人々の共感を得る時代になっている証拠だと思うのです。

 そのことは別のデータからも読み取れると思っています。それは国家公務員試験の受験者数の推移です。

 総合職(平成23年年度までは国家公務員Ⅰ種試験)の受験者数の推移を見てみると、平成8年度がピークで、その後、受験者数は減少、現在はピーク時の半分くらい。これもある意味、平成8年度がピークでⅠ種だけで4万5254人、そこからだんだん減少し、平成29年度には2万3425人まで減少しました。

 私も東大法学部の学生だった頃、もちろん「卒業後はどんな仕事に就くか」を真剣に考えました。自分個人の生活を「率直に、素直に」考えれば、「あまりブラックじゃない職場で、休みもそこそこあって、ゆとりある生活が出来て、そのうえ給料も結構もらえるところがいいな」という発想になるのかもしれません。むしろ人間としては、それが正直な気持ちだと思います。ただ、当時の私や私の周囲の学生たちの中には、「たとえ給料が安くても、国のため、社会のために働こう」という前向きな雰囲気が結構濃厚にありました。多分に偽善的ではあっても。

 国家公務員は、給料も安いしサービス残業も滅茶苦茶にあります。けっしてゆとりある生活なんて望めそうもありませんでした。それでも優秀な学生の中には、「国のために」という感覚が強くあり、霞が関を目指す者が多くいたのです。

 現在、国家公務員を目指す学生が減っているということは、「霞が関の官僚なっても、給料は安いし仕事はきつい。民間企業に就職したり起業したりしたほうが高収入も見込めるし、格好もよさそう」という気持ちに正直に向き合って進路を選択する学生が増えているということの結果ではないでしょうか。