ところが、意外と言っては失礼ですが、支持率はむしろ上昇していたり、案外手堅かったりしています。共同通信の世論調査によれば、内閣支持率は菅内閣発足時の9月が66.4%と高い水準でしたが、10月は60.5%と5.9ポイントも下がったものの、11月には63.0%へと上昇しています。11月29日までに行われた日経新聞の世論調査では63%から58%に5ポイント低下していますが、この間、ほぼ何も目玉がなく、上記のような「学術会議問題」などでの防戦一方の国会、コロナの感染拡大、安倍前総理の「桜を見る会」問題の再燃、などを考えるとかなり持ちこたえていると思われます。この高支持率を見た安倍晋三前総理は、自民党議員のパーティーに出席した際にこう述べました。

「今の支持率を見ると、私が首相なら強い誘惑に駆られる」

 それほど支持率は好調なのです。

 一般的に最初に高い数値を示した支持率は、あとは落ちる一方というパターンが多いのですが、あまり上がる要因もなく、共同通信の調査で再び持ち直したというのは、まだ有権者は菅内閣を応援したいという気持ちがあるのでしょう。

 しかし不思議です。スタート直後に学術会議問題でつまずいた菅総理は、国会での答弁も現在までのところ、決して上手くない。別に国民がワクワクするような演説をして拍手喝采を浴びたわけでもありません。デジタル庁も携帯の値下げも、本格的に動くのは少し先の話で、先述のとおり、コロナの感染拡大など、現状では、正直、不安定要因しか見当たりません。それなのに支持率が上がったりもしているのです。

高い内閣支持率の理由は菅総理の「実直さ」に

 もっとも、元経産省の役人だった私から見れば、「ちゃんと手堅くやっているな」と感じる面もあります。

 例えば、政権発足から2カ月のうちに、RCEP(東アジア地域包括的経済連携)調印を実現したり、行政のデジタル化をにらんで行政手続き上の「認め印」の廃止を打ち出したりしていることなどです。

 この「押印廃止」は、実はデジタル化を進める上で非常に大事な取り組みになります。

 行政手続きでの押印は、婚姻・離婚届、自動車検査証、住民票の写しの交付請求などで必要だった押印が、不要になりました。報道によれば1万4909種類の手続きでハンコが不要になるそうです。

 押印は基本的には本人確認の証拠、あるいは本人確認済みの証拠としてなされてきたわけですが、考えてみれば、役所に登録された実印以外なら、はんこ屋さんで買ってきて、誰でも勝手に押すことが出来るものです。その意味では、本当の意味での本人確認の機能は失われていました。

 そのハンコをやめるとどんな成果があるのか。実は押印をやめると行政文書はデジタルでやり取りできるようになります。わざわざハンコを押しに行く手間も必要になりますし、ハンコを押した文書の原本をやりとりする必要もなくなります。するとテレワークや行政のデジタル化の大きな障害が一気になくせるのです。押印廃止はそういう「クリティカルポイント」になっています。逆に言えば、ここから手を付けないと、行政のデジタル化もすすまないというものなのです。その意味では菅政権は発足早々に大きな仕事をしたと評価すべきなのです。