全米で票の再集計を求める抗議活動が起きている(写真:AP/アフロ)

11月3日に投開票を迎えた米大統領選だが、一部の州で集計が続いており、まだ決着はついていない。獲得した選挙人の数で劣勢のトランプ大統領は郵便投票の開票について問題視しており、激戦州での集計作業を巡り相次いで訴訟を起こすなど反発を強めている。米国を二分した大統領選はどこに着地するのか。11月5日に「激戦州で優勢のトランプ大統領が急減速した違和感」に引き続き、米政治に詳しい酒井吉廣氏に集計の現状や問題点と今後の見通しなどを聞いた。(聞き手は編集部)

民主党は集計結果を巡る訴訟の争点を消そうとしている

──メディアによって数字は異なりますが、選挙人の獲得数ではバイデン氏がリードしています。一部のメディアでは、バイデン候補が過半数の選挙人獲得に近づいているという報道もあります。現状はどうでしょうか。

酒井吉廣氏(以下、酒井):トランプ大統領は難しくなりましたね。ここまで来てわかったのは、現段階で問題となっている州は、横並びで話をしているだろうということです。ウィスコンシンとミシガンで起こったことを踏まえ、残りの民主党側の全州が最後の最後まで決定を延ばし、全ての結果が出揃ったところで一斉に発表ということだと思います。これだけの州で、ほぼ同じタイミングで同じ現象が起きる確率はかなり低い。共和党陣営はこのように見ています。

酒井吉廣氏の新刊『New Rules

──何がそうさせているのでしょうか。

酒井:共和党が裁判に訴えるなら、民主党は裁判の問題とならないように、または裁判では簡単に決着がつかないようにするということです。これはもう選挙ではなく策略の応酬です。人が死傷するような暴動にならないのが不思議なくらいです。

──共和党の裁判戦術はわかるのですが、民主党の戦術についてもう少し詳しく教えて下さい。

酒井:二つの考え方のうち、「裁判の問題とならないように」というのは裁判の争点を消すというものです。残り一つの州で決着がつくならばそれは明確な争点です。しかし、例えば5つの州を問題とするならば、その場合の争点は大統領選挙全体をやり直すというようなシステムの問題としなければならなくなります。そうなると、米国の民主主義が揺らぎます。

 後者の「簡単に決着がつかないようにする」というのは、米国ではたまにある話で、白黒ついた時には本来の話は終わってしまっているというような話です。今回の例で言えば、最高裁で時間をかけている間に1月の選挙人による投票日が来てしまえば、日本でも報道されているように下院議長が大統領になるとか、下院で各州1代表が投票するとか、新たな展開が起こる可能性があります。その間、ずっと争っていて今から2年して結果が出たのでは何の意味もありません。こういう戦術です。

──後者だとするとバイデン候補も大統領になれませんが・・・。