一見無関係に思われるような症状の中にも、実は青斑核の刺激によって引き起こされているのではないかと思われるものがあります。例えば慢性疲労や線維筋痛症などもそうだと思っています。現場で眼瞼下垂の治療をしていると、そういった症状が緩和される方も多いのです。

 また、“脳を覚醒させる”という信号がミュラー筋のセンサーから出ているため、目が開いている間は過剰に刺激されるので疲れますし、閉じていても少し信号が出てしまうために不眠など睡眠障害につながります。ちなみに動物実験では、そのセンサーと脳をつなぐ神経を切ってしまうと動物が眠りっぱなしになることが証明されています。

――いわゆる眼精疲労と言われる見えにくさや眼部痛、後頭部や首の凝りなどはどう関連するのでしょうか。

手塚 後頭部や耳の周りが凝るという人は、まぶたが開けにくいために視野を得ようと無意識にあごを上げた姿勢になっていることが多いです。目を開けている間は反射的にその姿勢をとるようになり、その辺りに力が入るようになっているのです。意識してあごを引いてみても、目を開いてものを見ようとする限り、後頭部の力は抜けません。目を開けている時間が長いと後頭部はずっと力が入っていますから、凝りや痛みがひどくなり、後頭部とつながる首から肩にかけて凝ってしまいます。目が疲れてまぶたが重く感じられるときは、上眼瞼挙筋も疲れてきている状態ですね。人によっては目の奥に強い痛みが出ます。

――なるほど、目を開けるという行為は、視力だけの問題ではないのですね。

手塚 後天性眼瞼下垂は長年かけてゆっくりとまぶたの中で起こる一種の小さな怪我です。その怪我によるさまざまな異常はCTやMRIには映らないのですが、脳の血流を測定すると異常が起きていることがわかっています。まぶたの神経からのインプットで脳の働きに異常をきたすのではないかというのが最近の考えです。

目がしっかり開いていても眼瞼下垂はある

――まぶたの異常は、自分で気づけるものでしょうか。

手塚 専門家でも見ただけではわからないものです。古典的には「まぶたが黒目の一部や大部分を覆った状態」が判断基準とされていますが、まぶたがしっかり開いていてもその中がどうなっているのかはわかりません。意識しなくてもがんばって目を開けていて神経がビシビシ刺激されっぱなしだったり、他の筋肉を酷使している可能性もあります。

 下の写真は私が治療した20代の患者さんですが、術前もちゃんとまぶたは開いています。しかし、この方は強い照明が苦痛になったことやさまざまな不定愁訴を伴っていたことで受診されました。術後1カ月はまぶたに腫れがありますが、7カ月を経過すると術前と変わらない開き具合となっています。そして、術前の問診で24項目あった不定愁訴は半年後には7項目に減りました。大きく開けることが目的ではない手術があることを分かっていただけますでしょうか。

【図2】20代女性の眼瞼下垂手術による見た目の変化。術前と7カ月後ではまぶたの開き具合に大きな差はない。(松山市民病院 手塚敬医師提供)
拡大画像表示