イラスト:近藤慎太郎

 ヒトの体内、特に口の中や皮膚、腸管には「常在菌」といって、病原性のない微生物がいることは以前から知られていました。ただ、微生物学においては、長らく病原性のある微生物に対する研究が優先され、常在菌について深く研究されることはありませんでした。当然のことながら、人体に有害な症状を引き起こす微生物をどうするかが喫緊の課題であって、害のない常在菌の研究まで手が回らなかったのです。

 人体に有害な微生物についても多くは研究途上ですし、今回の新型コロナウイルスなど、今後も新しい病原体が次々と出てくるのも間違いありません。人類はまだまだ人手不足です。

 しかしビッグデータの解析技術が進み、ヒトゲノム解析がなされた流れに乗って、常在菌、特に主に大腸に住んでいる「腸内細菌」についても急速に解析が進んできました。

 その結果、驚くべき事実が次々と明らかになっています。腸内細菌の役割が実に多様で、腸に限らず、様々な臓器の病気の発症に深く関与していることが分かってきたのです。その結果、各分野の専門科がこぞって腸内細菌についての研究を始め、世界的に苛烈な研究競争が繰り広げられています。