ドン・ジュニアは長年、父親と「距離がある」とみられてきた。父ドナルドが一番目の妻で、ドン・ジュニアの母親であるイヴァナと離婚した際、すでにティーンエイジャーで、幼なかった年下のイバンカや次男エリックと異なり、地元のタブロイド紙を連日にぎわせた両親の泥沼の離婚劇を理解できたからだ。離婚後、1年間は父親とは口を聞かず、母方の祖父とチェコ語で話すほどなついた。父親と同じペンシルバニア大学に進学後も、「ロン」というニックネームで過ごし、「トランプ」や「ドナルド」の名前を避けた生活を送っていたとされる。

 そんな息子に父も冷淡だった。2016年の大統領選の選挙戦では、父ドナルドはイバンカを頻繁に同伴し、壇上から「美しく、賢い娘」を何度も絶賛してみせた。当選後、一緒に首都のワシントンに移住したのも、イバンカとその夫ジャレット・クシュナー一家だった。一方で、ドン・ジュニアは、父親が大統領職で留守の間、一族企業の国際事業を運営するという名目だけの肩書をあてがわれた。

危機をチャンスに転換

 その後、さらに父親との関係を危うくするような事態がドン・ジュニアを襲う。ロシア疑惑を担当したモラー特別検察官の捜査で、ドン・ジュニアが疑惑の当事者となってしまったのだ。

 2016年の大統領選前に、ライバル候補のヒラリー・クリントン元国務長官に不利な情報を持つとされるロシア人弁護士とトランプ陣営幹部の面会を仲介したのがドン・ジュニアであったことが判明したのだ。米国では通称「トランプタワー会合」として広く知られた案件だ。ロシアの選挙介入を許した中心人物として「国家の反逆者」との批判も出るなか、父ドナルド氏やその弁護士らは当初「ドン・ジュニアはあまり賢くないから愚かな行動をとってしまった」と弁解するつもりだったと米主力メディアは報じている。

 だが、ドン・ジュニアは、頭の弱い長男の愚行として、トカゲの尻尾きりにあうことを拒んだ。逆に、自ら親トランプ的な論調で知られる米テレビ局「FOXニュース」の単独インタビューを受け、疑惑を真っ向から否定してみせたのだ。

 その際の弁舌やテレビ映りが保守層に受けた。その後、ドン・ジュニアは頻繁にFOXニュースの番組に出演するようになり、政治面でのトランプ家のスポークスマン的な役割を担うようになっていく。ドン・ジュニアにとって、この危機が転機となった。