インサイダー疑惑の顛末

──加齢黄斑変性の失敗の際にはインサイダー疑惑も浮上しました。あの件については?

窪田:全く根拠のない話です。アキュセラはマザーズに上場していましたが、米国本社の米国の会社でしたので、米SEC(証券取引委員会)はアキュセラの株価をモニターしていました。そのSECが何も言わなかったし、米国はインサイダーの「イ」の字もあれば、CEO(最高経営責任者)やCFO(最高財務責任者)は逮捕されます。何かあれば、僕は逮捕されていますよ。

 開示予定を早めたのは事実ですが、それも臨床結果が想像以上にすぐに明らかになったからです。臨床試験の結果解析はポジティブかネガティブかが微妙だなというときは時間がかかりますが、ポジティブ、ネガティブがはっきり分かる場合はすぐに結果が出るんです。

 あのときは、結果の解析にある程度の時間がかかるという前提で予定を発表していましたが、加齢黄斑変性の臨床試験は笑ってしまうくらいクリアにネガティブでした。ダメだという結果が出た以上はすぐに開示しなければなりません。だから、臨床試験の結果を前倒しで発表したわけです。だいたいインサイダーであれば、その後の再上場もできなかったでしょう。あれは完全に誤報です。

──四半世紀前に緑内障の原因遺伝子である「ミオシリン」を発見したときもそうですが、窪田さんはあきらめずに何度でもチャレンジしますよね。やはりミオシリンの成功体験が大きいのでしょうか。何かに成功したときのアドレナリンの爆発が忘れられないというか。

窪田:逆ですね。どちらかというと、僕は一喜一憂せずに淡々としています。何か面白い発見をしても「面白いけど話半分かな」と思いますし、失敗しても「まあ、そういうこともあるよね」と。

 人にもよるのでしょうが、研究者や起業家で大切なのは、そうやってアドレナリンが出ないことだと思います。一つのことで喜ぶタイプの人間だと、逆に失敗したときの落ち込みが半端ない。精神の起伏で自分自身がつぶれてしまう。それでは続かないと思います。

──それはイメージとは違いました。

窪田:いずれにせよ、今はスターガルト病や糖尿病網膜症、クボタメガネ、NASA用のガジェットなど、可能性のある案件がいくつもあります。以前は加齢黄斑変性の一本足でしたが、今は複数ある。それだけにチャンスがあると感じています。僕の夢は世の中から失明をなくすこと。そのために、研究開発を続けます。