レンズから脳が認識しない模様を映し出す
窪田:近視は原因はいろいろとありますが、その多くは軸性近視と呼ばれるものです。眼球は通常球形ですが、眼球が後ろに引っ張られることで眼軸長(角膜の頂点から網膜までの長さのこと)が伸びる。その結果、目の焦点が網膜の手前になり、遠くのものが見えにくくなってしまうというメカニズムです。球形であるはずの眼球がナスのような形になってしまうんです。
この眼軸長の伸びを抑制したり、伸びてしまった眼軸長を短縮させたりすることができれば、近視の治療につながるはずです。そこで、眼軸の伸びを抑制するような刺激を網膜に与えるデバイスをつくろうと思ったというわけです。
実は、同じ原理で実用化している製品があるんです。周辺部のレンズの屈折を変えることで、手前にピントを合わせて近視を抑制するというコンタクトレンズです。軽度な抑制ですが、FDA(米食品医薬品局)からの認可を得ています。僕たちのデバイスは積極的に網膜に刺激を与えているという点で異なります。
──どんな画像を映し出しているのでしょうか。
窪田:模様というか、パターンですね。脳も最初は認識しますが、単調なパターンなので脳が飽きてしまって認識しなくなる。マリオットの盲点と一緒です。ただ、脳は認識していませんが、網膜には見えているので、網膜には常に刺激が与えられているという状態になる。この性質を利用しています。
──実験結果はどうだったのでしょう?
窪田:まず設置型デバイスで短期試験をしました。その結果は既に公表されていますが、1日1時間、網膜に刺激を与えることで眼軸が短くなることを証明しました。現在は21歳から35歳の25人に、ヘッドマウントディスプレー型のデバイスで試験しているところです。それが成功すれば、次は眼鏡型で実験し、年内にはプロトタイプ版を完成させたいと思っています。今は設置型の研究成果についての研究論文を書いています。