窪田:実は、エミクススタト塩酸塩はスターガルト病に効果を発揮する可能性が一番あるんです。僕たちが最初に示した動物モデルでは、スターガルト病を起こす遺伝子と同じ遺伝子異常を持つ動物で実験し、網膜が治癒するという結果が出ました。マウスと人間は別物ですが、同じ遺伝子の異常を起こしたマウスに効いているんですから。
じゃあ、なぜ加齢黄斑変性の前にスターガルト病の臨床試験をやらなかったのかと感じるかもしれませんが、子どもを対象にした臨床試験というのは極めてハードルが高いんです。風邪薬のような一過性の薬ではなく、一生にわたって飲み続けなければならない慢性疾患治療薬は特に高い安全性が要求されます。子どもは薬に対する感受性が豊かな上に、残りの人生が長いがゆえに、害が出た場合の影響が大きすぎる。そのため、新薬開発は大人で効果や安全性を確かめ、それから小人用の治療薬を開発するのが通常です。
──加齢黄斑変性で安全性を立証できたので、スターガルト病に進むことができた、と。
窪田:そうです。今は世界11カ国で、194人を対象にフェーズ3の臨床試験を進めています。
──順番が前後しましたが、デバイスという面では宇宙飛行士向けの超小型眼科診断装置の開発も進めています。