就寝中に光を発するコンタクトレンズとは

──スターガルト病の臨床試験はフェーズ3(第3相)、糖尿病網膜症はフェーズ2(第2相)まで来ていますね。

窪田:ええ、こちらも楽しみです。実は、糖尿病網膜症への可能性を模索しているときに、光を出すコンタクトレンズというアイデアを思いついたんです。網膜は中枢神経の中で唯一、光の刺激が止まるとエネルギー消費が上がり、光の刺激を受けるとエネルギーの消費が下がる神経系であるという特徴があります。普通の神経系とは逆なんです。

 糖尿病網膜症の患者を調べた実験を見ても、寝ているときに光を当てると網膜のエネルギー消費レベルが下がり、網膜が安静状態になる。つまり、寝ているときに光を当てる方が網膜への刺激が減り、有害代謝産物の生成が抑えられるということです。エミクススタト塩酸塩は低分子化合物ですが、狙いは同じわけですから、デバイスでやるのもありだよね、という議論になり、寝ているときに光を出す光コンタクトレンズを開発することになったんです。

──それは興味深い。

窪田:その派生で、近視もコントロールできるんじゃないか、PoC(概念実証)を取るなら眼鏡の方がやりやすいよね、ということで、近視抑制のクボタメガネの開発に行き着いたという話です。

──一度は失敗したエミクススタト塩酸塩に、新薬としての可能性があったというのも興味深いです。

窪田:加齢黄斑変性については効果がなかったというだけで、エミクススタト塩酸塩には毒性副産物の生成を抑えたり、網膜を休ませたりする効果があります。実際、糖尿病網膜症の臨床試験(フェーズ2B)では網膜が安静になるということは証明されました。

 負け惜しみに聞こえるかもしれませんが、新薬開発における安全性の担保というのはものすごく大変なんです。効果があっても、安全性が低いがゆえに認可されなかった薬はたくさんあります。加齢黄斑変性の開発がうまくいかなかったのは確かですが、一方で2年間、網膜がデリケートで全身の状態がいいとは言えないご高齢の方がエミクススタト塩酸塩を飲んでも、何の問題も起こりませんでした。これは高い安全性が証明されたということです。これは、僕たちにとってとても大きな成果でした。