糖尿病網膜症やスターガルト病も対象

──今後の開発状況でしょうが、将来的には医療用デバイスとして保険適用を目指すのでしょうか?

窪田:そこは分からないです。ただ、保険適用を受けるには、それぞれの国の法規制に応じて長期試験を実施する必要があります。その時間を考えると、医療的な効果は謳えないけれども、近視をコントロールできる実験用ガジェットという形で販売するかもしれません。言ってみれば、ARデバイスと何ら変わりないので。今も、近視に悩むお子さんを持つ方から、「臨床試験に何としても参加したい」という切実な声をいくつもいただいています。

 あるいは、アジアの国々の方が出しやすいという可能性もあります。近視の有病率は韓国や台湾、中国など東アジアの国々で高く、より切実なニーズがあります。中国は国家戦略として近視を減らそうとしているので、レギュレーション上、医療用デバイスとして認可を受けやすいかもしれない。いずれにせよ、やってみなければ分かりません。

──クボタメガネはいつから開発しているのでしょうか。

窪田:2年くらい前です。

──きっかけは?

窪田:僕たちがアキュセラで加齢黄斑変性の治療薬を開発していたのはご存知だと思います。

 少し専門的になりますが、網膜には脳に映像を認識させるため、光を電気信号に変える「視覚サイクル」という仕組みがあります。この視覚サイクルは明るい光や強い光にさらされると有害な代謝産物を生成します。それが蓄積されることで、視覚サイクルに悪影響を与えるだけでなく、網膜の損傷や視力低下などさまざまな悪影響をもたらしてしまう。前回の加齢黄斑変性のときは、この有害代謝副産物が加齢黄斑変性の原因という仮説を立て、研究開発を進めました。

 残念ながら、加齢黄斑変性では期待したような効果は得られませんでしたが、エミクススタト塩酸塩には有害代謝副産物の生成を抑えるだけでなく、網膜のエネルギー消費を抑えるという効果も期待できます。そこで、窪田製薬としては糖尿病の合併症である糖尿病網膜症や網膜の若年性遺伝性疾患として知られるスターガルト病など、エミクススタト塩酸塩の働きによって症状を改善可能だと思われる疾患で臨床試験を進めているところです。