夜型の子どもには始業時間を遅らせる方が効果的
また、「夜型の人間が努力をすれば朝型になる」というのも、睡眠科学の世界では幻想に近いと捉えられています。
第4回でも解説した通り、人間の体内時計はおおむね24時間10~20分の間に入ると考えられています。
そして、この大部分は遺伝子によって決定されています。中には、24時間を切っている人も稀ながらいます。
そういった人は、夜になれば毎日自然と眠くなるので、バリバリ仕事をするような状況にはなく、早めに就寝します。朝になれば、体内時計は前倒しで1日が始まっているので、起床時もスッキリ目が覚めます。つまり早寝早起きがさしたる努力もせずにできるのです。この人は典型的な「朝型」になります。
逆に、もし体内時計が24時間30分などと大幅に長かったら、毎日なかなか眠れないし、平日の起床時はまだ寝ているべき時間帯になるので、頭も体もボーっとしているでしょう。夜は眠る気にならずに頭が冴えているので、「夜型」になります。
つまり、「朝型」「夜型」という用語には、プラスで「生産性が高まる時間帯」というニュアンスがくっついていますが、本来は、朝と夜どちらにスッキリ覚醒しているかという問題です。そしてその本質は、体内時計が短いか長いか、なのです。
そして、体内時計が遺伝子で規定されていることを考えると、自助努力で夜型を朝型に変えようとするのは、なかなか難しいと言わざるを得ません。
実は、成人に比べて睡眠時間が長い(つまり夜型)中高校生などは、早い時間に集めて朝型に矯正するよりも、始業時間をむしろ10時に遅らせた方が成績が良くなるという報告すらあります(4)。これは、前述した『早寝早起き朝ごはんで輝く君の未来』とはまったく逆の結論で、非常に興味深い。
自分のゴールデンタイムに集中すればOK
浮かんでは消えていく、サマータイムの議論も同じ根っこを持っています。
通勤電車の込み具合とか、消費電力とか、経済的な問題が前面に出てきますが、その背景にあるのは、「人間は努力すれば早寝早起きにシフトできる」という強固な思想でしょう。
しかし、サマータイム導入時に始業時間を前倒ししても、少なからぬ人の生産性は上がらないし、むしろ心身への負担から、交通事故や心筋梗塞のリスクが上がるという報告もあります(5)。
健康被害が無視できないため、ロシアは導入していたサマータイムを廃止しています。フランス、ドイツ、スウェーデンなどでも、サマータイムによる弊害が明らかになっていますが、欧州連合(EU)としての枠組みがあるため、自国だけ廃止することが難しいという実情があるようです。
以上を総合すると、「できるビジネスパーソンたるもの、朝型で生産性を上げるべし」というのは、体内時計が短くて自然と実践できる幸運な人であればいいけれども、そうでなければ、無理に頑張る必要はありません。
「一人サマータイム」に成功して1、2時間シフトしても、起き抜けのボーっとした感じが取れない可能性が高い。また、休日前に油断して少し夜更かしすれば、簡単に元のサイクルに戻ってしまうでしょう。
仕事のやり方は千差万別です。世間一般のイメージに合わせる必要はないので、自分に合ったやり方を見つければいいのでしょう。午前中は調子が上がらないというのであれば、ルーティンワークをこなしてしのぎ、自分のゴールデンタイムが来たら、集中と熟考を要する仕事に割り当てればいいのです。
「それでも朝からバリバリ働きたい!」という場合にはどうすればいいでしょうか。実は、典型的な夜型人間である筆者の個人的な経験から言えば、起きて一息ついたら、15分から20分ぐらいの軽い運動をするのがお勧めです。うっすら汗をかいてシャワーを浴びれば、覚醒度は格段に上がるし、日中の眠気も解消されます。1日が少し長くなったような感覚すらあります。ぜひ一度お試しください。
【参考文献】
(1) Volmer C et al. Morningness is associated with better gradings and higher attention in class. Learning and Individual Differences 2013;27:167‒173.
(2) Wolfson A.R et al. Sleep schedules and daytime functioning in adolescents. Child Dev. 1998;69:875-887
(3)和田快ら.2012.「早寝、早起き、朝ごはん」による競技パフォーマンスへの効果 日本睡眠学会第37回定期学術大会(2012年6月28-30日, パシフィコ横浜)
(4) Paul Kelley, et al. Is 8:30 a.m. Still Too Early to Start School? A 10:00 a.m. School Start Time Improves Health and Performance of Students Aged 13-16 Front Hum Neurosci. 2017;11:588.
(5)「サマータイム-健康に与える影響-」日本睡眠学会
※著者の近藤慎太郎氏が新刊『ほんとは怖い健康診断のC・D判定』を出版しました。「ちょっと忙しかったし」「まあ、まだ元気だし」──。こんな言い訳を自分にしつつ、健康診断のC判定やD判定をほったらかしていませんか。でも、ほんとに怖いんですよ、そのままにしていると。「糖尿病」「高血圧」「脂質異常症」「痛風」「尿路結石」……。さらに、こうした病気になった人が、「脳卒中」や「認知症」、「心筋梗塞」を起こし、“要介護状態"になることも少なくありません。本書はこうした病気が起こるメカニズムと症状、そして発症を予防する食生活や運動について、エビデンス(科学的な根拠)を用いながら、現代の医学で分かっていることをマンガも交えて丁寧に解説しています。