連載「実録・新型コロナウイルス集中治療の現場から」の第9回。「感染しても重症化しなければいいや」と言えますか? 原因はまだ不明だが、軽症でも普通の生活になかなか戻れないと讃井將満医師(自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長)は警鐘を鳴らす。

 本当に医療体制は逼迫していないのか?

 新型コロナウイルス感染症の感染者数が4月並みの高水準で推移する中、取材でよく聞かれます。7月14日現在、埼玉県全体の重症患者数は3人。そのうち、人工呼吸器に乗っている患者は1人だけです。埼玉県だけでなく全国的に見ても、こと重症患者については医療体制は逼迫していません。これは事実です。

 一方で、イタリアで新型コロナ感染症の後遺症に関する報告が出ました。それによると、回復後(発症から平均2か月後)も87.4%の患者が何らかの症状を訴えているといいます。日本でも後遺症を示す事例の報告が相次いでいます。これも事実です。

 重症患者が増えない理由は現時点でわかりませんが(さまざまな理由が考えられますが)、重症化しないから心配ない・・・とは言えないのです。

 私はICUで新型コロナ感染症の重症患者を専門に診ているので、軽症・中等症の患者は診ていません。確かに重症患者には、後遺症が高頻度に起こるであろうと思っていました(第3回参照)。しかし、日本や世界で退院する患者が増えるにつれ、軽症・中等症でも一定数の患者が後遺症に苦しんでいることを知るようになりました。そこで、軽症・中等症ではどのような症状・後遺症が出るのか、ヒアリングしてみました。

 話をしてくれたのは、30代の看護師で、4月上旬に感染しました。以前慢性の炎症性疾患にかかっていたことがありますが、今はいたって元気で、薬も服用していませんでした。なお、日付は保健所が発症日と判断した日を、「1日目」としてカウントしたものです。

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【-5日目】

「仕事が終わって電車に乗って帰宅する時にコホンと咳が出ました。むせた咳ではなく、風邪っぽい咳だなと思いました。でも、翌日も元気で、熱も出ませんでした」

【-1日目】

「朝、体がちょっとだるくて熱を測ったら37度ありました。仕事に行ってもいいぐらいに元気だったのですが、念のため上司に相談して、一応自宅待機としました。ところが、その後、時間単位で具合が悪くなっていきました」

【1日目】

「日付が変わって夜中に38度の熱が出ました。後に、保健所は、この日を発症日とすると判断しました。

 この頃から、筋肉痛と倦怠感が顕著になりました。また、鼻づまりになり、匂いはまったく感じない状態になりました。味覚についても、しょっぱさだけ残ってそれには敏感になりましたが、他の味はまったくしなくなりました」