人事戦略の欠如が若手の待遇劣化を招く

 若手研究者の待遇が悪く、優秀な学生が研究者を志望しない。また志望しても、身分が不安定なため、研究への意欲を欠く者が少なからずいるという。その通りだと思う。これまでにない着想による先端的研究の担い手は若手研究者だ。わが国のノーベル賞受賞者も多くは若い時の研究が評価されたものだ。若手研究者の待遇が劣悪で研究環境が悪いことについても、法人化後の財源不足が原因として指摘されることが多い。

 人事制度に関しては、1990年ごろ大学の設置基準が大綱化され、大学の自由な人事、大学の判断による適材適所の人事のためのポストの配置が可能になった。つまり、それまで法令で講座まで決められ、教授、助教授、講師、助手のポスト数がガッチリと決められていたのに対し、大講座制が採用され、教授、助教授などの数は、総枠は決められているものの、個々の数の決定は大学の裁量に委ねられた。

 その結果、何が起こったか。大学院重視の改革とも重なり、社会の高齢化も影響して、大学における教授の数が増加した。他方で、相対的に減少したのが若手研究者のポストである。

 法人化によって、人事制度、そしてそれに伴う給与制度も法人が自ら決定できる余地が拡大した。また、外部資金による寄付講座なども増え、それによってポストも増えた。したがって、将来の研究能力を涵養し、将来に備えた人材育成をめざす法人経営を図るならば、そのために若手研究者のポストを一定数確保するという長期的な人事戦略をとることも可能であったはずだ。

 現在の国立大学は、限られた資源を将来のために効果的に投資をする、わかりやすくいえば、今は我慢しても将来の発展をめざすという形で経営戦略を立てることができていないのではないか。

 運営費交付金の削減が、現在の国立大学のさまざまな問題の原因とされるが、毎年1%の運営費交付金の削減は、法人化のとき以来、決まっていたことである。総額1兆1000億円程度の運営費交付金は、コロナ対策に比べると少ないともいえるが、国の財政が厳しい上に、18歳人口の減少は止まらず、学生を私立大学と取り合う状況の中では増やせるとは思えない。

 このような状況下で、今後、現在の数の大学が、今までのような経営を続けていくことは困難である。競争が厳しくなる中で、2019年に法人法が改正され、それまでの一法人一大学の原則が改められ、複数の国立大学を一つの法人下に置く法人統合も行われるようになった。今後、大学の統廃合も始まるであろう。

 その意味で、国立大学も、そろそろ腰を据えて自ら思い切った改革に取り組むべきときだと思う。学内の研究能力や事務運営の厳格な評価を行い、ムダを削減し効率性を高め、発展の可能性のある分野に資源を振り向けるべきである。

 いま必要なのは、大学人が大学を取り巻く環境について認識すること、すなわち大学人の意識改革だ。それなくして、ただただ財源の不足を指摘し、法人化は間違いだったと主張しても、国立大学の教育・研究の質が改善されるとはとても思えない。