少子高齢化と人口減少が進むわが国の社会の質を維持し、さらに発展させるためには、データの活用による効率的な社会運営が不可欠だ。一方で、データ活用のリスクにも対応した制度基盤の構築も早急に求められている。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって、これまでの経済、社会のあり方は大きく変わろうとしている。
その中で、日本が抱える課題をどのように解決していくべきか。データを活用した政策形成の手法を研究するNFI(Next Generation Fundamental Policy Research Institute、次世代基盤政策研究所)の専門家がこの国のあるべき未来図を論じる。第9回は災害と個人情報に詳しいNFI理事・KDDI総合研究所の加藤尚徳氏(過去8回分はこちら)。
※NFIでは、2020年7月18日(土)に「次世代基盤政策研究所(NFI) 緊急シンポジウム ポストコロナ時代の災害に次世代基盤政策が果たす役割とは」を開催します。
(NFI理事:加藤尚徳)
災害と被災は非日常ではなく日常
災害はいつ始まり、いつ終わるのか。大地が揺れたら始まり、揺れが収まったら終わるのか。いつもよりたくさん雨が降ったら始まり、河川から溢れた水や土砂が片付けられたら終わるのか。
2019年10月、台風19号が関東地方を襲い、私の自宅も床下浸水の被害を受けた。幸いにして、避難準備情報が出た頃に、妻子を連れて安全なところに避難したため、浸水被害を直接目にすることはなかった。今思うと、私の小さな被災経験はこの避難準備情報から始まったようにも思える。
しかし、以前にも避難準備情報が出されたことはあったし、その時にはこんな被害にはならなかった。ハザードマップには「100年に一度」の想定と書いてあったし、自分が被災地で取材した経験がなければ、日常の連続の中で、直接浸水被害を目の当たりにしていたかもしれない。
2018年7月の西日本豪雨災害の際に堤防決壊で50人の死者を出した岡山県倉敷市真備地区を調査で訪れた経験、さらに2019年の台風19号で自宅が床下浸水の被害にあった経験を振り返れば、こういった被災の終わりがいつ来るかを見通すことは困難であるし、始まりを定義することも容易ではない。
そして2020年、世界中の人々が始まりも終わりも分からないような災害を経験している。新型コロナウイルスの流行の収束は見通せない、流行がどこからどのように始まったのかについては様々な議論が繰り広げられている。
災害の問題を考えるときに、我々は日常(平常時)と非日常(非常時)を分けて議論することが多い。だが、実は日常と非日常は連続していて一体不可分だということを、世界中の人々が身をもって知ったのが今回の出来事だろう。