自治体間で異なる個人情報のルールが妨げに

 自治体以外にも、避難所では多数の名簿が作成される。真備地区の調査では、驚くことに、1つの避難所で10以上の名簿が作られていた例もあった。理由は単純だ。自治体が開設した避難所で受付が行われた際に作成される名簿が、避難所で支援をしようとする支援者に開示されないからである。

 そのため、支援者はどのようなニーズがあるのかということについて、避難所を巡回して、一回一回ニーズを把握するという作業が必要になる。医療者は医療のニーズ把握するための名簿を、各ボランティア団体はボランティア団体ごとに名簿が作られ、それが積み重なるわけだ。

 不安と疲労にさいなまれている避難者は、何度も同じようなことを聞かれてストレスを感じるに違いない。また、支援を提供するために名簿を作成することは仕方がないことではあるが、その際に作成された名簿の管理者がいなかったり、不明になってしまう事例もあった。

 さらに、自治体が作成する3つの名簿は、自治体ごとに作成されるため、自治体をまたいだ連携が難しい。いわゆる2000個問題に代表されるように、自治体ごとに個人情報保護の異なるルールが存在しており、名簿を共有できたり共有できなかったりする。

 たとえば、東京に居住している要支援者が、旅行先の北海道で被災した場合、この人に関する避難行動要支援者名簿に記載されている内容が被災先には共有されないということが起きる。広域災害が起これば、こういった情報が自治体ごとに管理・運用されている弊害が生じることは明らかだ。

 このようはことから、私は、支援のための3つの名簿をつなげ、さらにこれらの名簿を自治体を、またいで共有する必要性を訴えてきた。名簿間、自治体間連携がうまくいけば、これらの名簿を基礎として、災害発生初期に必要な支援から避難生活が長くなった場合の支援まで、長い目線での支援を提供することが可能になる。

 しかし、令和2年7月の豪雨はさらなる難問を投げかけた。