「Go To」の1兆7000億円は「捨て金」
今回の「Go To トラベル」は、こういった観光業全体の苦境に対する国のギリギリのサポートと好意的に評価される一方で、金額が小さすぎて焼け石に水だという側面もあります。意外と知られていませんが、観光業の規模は実際にとてつもなく大きいからです。
・2018年 旅行・観光関連市場(消費) 約25.5兆円
・2019年 飲食サービス市場(消費) 約27兆円(日本フードサービス協会)
市場の外観で言えば、もちろん東京や大阪、福岡などの大都市での宿泊も含む大枠の数字ではあります。経済学者の飯田泰之さんは、観光本体を含む周辺事業の経済規模をおおむね年間58兆円規模と推計しています。また、国土交通省や総務省では地方経済を支える国内観光事業の市場規模を年間約45兆円から50兆円前後という前提で計算しています。およそ年50兆円以上の観光市場が日本にはある、という前提で考えて良いのではないかと思います。
そうだとすれば、月およそ5兆円内外の市場であった観光事業が2020年2月以降は「ほぼゼロ」にごっそり消えたことになります。恐らく、皆さんの想像以上に、観光業界の市場は大きいのではないかと思うんですよね。
そこに今回の「Go To トラベル」など政府系事業が単発1兆7000億円の助成金を観光業に投下しますと言っても、経済効果としては最大で2週間ももたないレベルです。
政府(安倍官邸)やマスコミが「Go To トラベル」の是非や実施するしないですったもんだしています。ただ、観光業に対する助成という意味では、減った需要を埋めるには観光業の規模が大きすぎ、また政府がどれだけ財政出動をしても助かりません。それでも、1.7兆円を「捨て金」として観光業を救うのかという命題を突きつけられていることになります。
そして、そこには「観光業が地域唯一のまともな民間事業である」という地方経済の現実がぶら下がっています。仮に、MMT(現代貨幣理論)による積極財政だと叫び、国債を新たに30兆円積み上げて日本銀行に引き取らせ、全額を観光業界に突っ込んだとしても、コロナウイルス対策が収束しない限りは半年ちょっとしかもちません。
日本経済全体の経済規模は年間約550兆円と言われています。我が国の一般会計が100兆円を超えたの超えないのと大騒ぎしていますが、財政によって刺激できる真水の金額はせいぜい年間30兆円が限度。つまり、日本経済というのはそれだけ民間経済の規模が大きいということです。その民間経済がコロナショックによって四半期マイナス10%成長に陥るだけで、ふた桁兆円が消えてしまうことになるのです。
多くの方が政府の能力や財源の余力を過剰に見積もりすぎており、まるでたくさん国債を出しさえすれば積極財政で経済が回復するという宗教にハマってしまっているかのように見えます。