観光への投資にアクセルを踏み込んだけれど
中国のみならず、欧州、アメリカ、オセアニアからの訪日観光客が増えた大きな理由は、世界的なイベントであるラグビーワールドカップで米欧豪加およびニュージーランドからの注目が集まったことにもあります。
2020年夏に予定されていた東京オリンピック・パラリンピックを前に、さらに多くの訪日外国人が増えることを見込んでホテルの建設ラッシュが各地で進みました。また、各観光地はオリンピック見物に来る外国人観光客に、もう2泊、3泊してもらうための営業に余念がありませんでした。
日本観光の定番となっていた京都・奈良や、富士山(静岡・山梨)、北海道、USJを抱える大阪圏などでは、2018年から2020年にかけて各地でホテル需要がひっ迫し、東京、福岡、仙台などの大都市圏を含めてもホテル建設が間に合わず220万室が足りないと言われてきました。青天井に伸びていく観光需要に追いつくために、また、東京オリンピックという一大需要のために、ある種のバブル的な様相を呈していたのが観光業の実態ではなかったかと思います。
一方で、日本の観光業全体で踏まえると、観光業の統計に入らない民泊の拡大や、いわゆる「外―外」と呼ばれる問題が浮上していました。「外ー外」とは、中国など外国の業者が日本に住む外国人が提供するタクシーや宿泊などのサービスを斡旋するため、日本には全く観光のお金が落ちないという問題です。
さらに、京都やニセコなどでは海外資本の流入が拡大したことで、施設開発がコントロールしづらくなるという弊害も出ました。外国人観光客の増大は、必ずしも観光全体を潤したわけではないということですね。
外形的には、日本の観光業に占める売り上げの7割程度は依然として日本人による日本国内旅行であり、旅行代理店経由の予約がネット利用も含めて引き続き半分以上を占めています。また、外国からの訪日観光客を当て込み、日本の観光業全体を盛り上げるというのは重要な戦略ではありますが、外国人観光客の顧客当たりの単価は必ずしも高くありません。
そこで、外国人観光客の単価を引き上げつつ、国内旅行の需要を確保するというもう一段上の観光資源開発、つまりは観光業への投資が地方における喫緊の課題でした。そこに全力で傾斜した地方はもとより、日本中が観光客の誘致と拡大のために、アクセルを地べたまで踏んでいる状態でした。
そこに、コロナ騒動が直撃しました。背伸びをして、頑張って成長しようとしているところに足払いをされたようなものです。観光地としての投資を続け、オリンピック後も訪日観光客がどんどんやって来る前提でホテル建設に邁進してきた観光業界にとって、コロナ騒動はその投資が一気に無に帰すような衝撃でした。
現在、国内は自粛、海外からの観光客は実質的に完全にストップしています。これまでの投資が無駄になるどころか、売り上げが2020年2月から5月にかけて完全に途絶えるという事態になると、いくら雇用調整助成金や持続化給付金が国からばらまかれようと、そのような金額では到底足りず、破綻必至です。