(大西 康之:ジャーナリスト)
東芝が5日、2019年3月連結決算を発表した。売上高は3兆3899億円で、粉飾決算が発覚する前、2015年3月期の6兆7000億円に比べ、ほぼ半減だ。半導体メモリー、液晶パネル、AV(音響・映像)、パソコン、白物家電。海外原発事業で生じた巨額赤字を埋めるため、売れる事業をことごとく売ってきたことの結果である。
営業損益こそ1305億円の黒字になったが、最終損益は1146億円の赤字。21年度も売上高はさらに減り、3兆1800億円になり、営業利益も16%減の1100億円と予想している。
ある意味、東芝は現実を受け入れ「日本を代表する企業」になることを覚悟したのかもしれない。
老朽化したインフラの保守・更新を主軸に
オンラインで実施されたこの日の記者会見で、車谷暢昭社長兼最高経営責任者(CEO)は半導体メモリーや家電を切り離した後の、新しい東芝の姿をこう表現した。
「インフラサービスカンパニー」
三井住友銀行からCVCキャピタルパートナーズを経て2018年に東芝の会長兼CEOに就任した車谷氏は、東芝を「世界有数のCPS(サイバー・フィジカル・システム)企業にする」というビジョンを掲げてきた。ビッグデータやAI(人工知能)といったサイバーと、発電所、上下水道、鉄道システムなどのフィジカルを組み合わせた造語である。
実際には、車谷氏が会長に就任した頃の東芝は粉飾決算と海外原発の巨額赤字の処理に追われ、ビジョンを語るどころの騒ぎではなかったが、リストラ一辺倒では社員が下を向いてしまうため「CPS」という耳慣れない言葉で前向きな姿勢を出そうとした。
それに比べると、この日、車谷氏の口から出た「インフラサービスカンパニー」という言葉は「ありのままの東芝」を素直に表している。インフラサービスとは、わかりやすく言えば、老朽化した電力、上下水道、鉄道システムのメンテナンス、更新、廃棄である。
「インフラサービスというのはどのくらい儲かるものなのか」というアナリストの質問に対して、車谷氏はこう答えた。
「我々が主にビジネスをする日本や米欧では、社会インフラの構築はすでに完了しており、新たなインフラをどんどん構築する環境にはない。日本で新規の原発を建設するのは難しい。しかしこれらの社会インフラのメンテナンス市場は約5兆円あり、社会インフラの老朽化に伴って年率5%で市場が伸びている。日本でも原発の廃炉がこれから本格化する」
「社会インフラのメンテナンスは、構築の経験がある企業の方が有利で、新規参入は少ない。他社が構築したインフラのメンテナンスを受注していけば、5%よりもっと大きな成長が見込める。固定費を削れば利益率を10%近くまで高めることも可能だ」
これが「日本を代表する企業」の真の姿である。世界で最も少子高齢化が進み、エネルギー需要も消費も伸びない日本の中で、唯一、成長が約束されているビジネス。それは「介護」だ。子どもが減る一方の社会で幼稚園や学習塾は流行らないが、介護施設の需要はまだまだ伸びる。社会システムも同じこと。発電所や道路や鉄道を新たに作る「動脈ビジネス」はもはや必要ないが、戦後の復興期から営々と作り続けてきた社会インフラを維持したり廃棄したりする「静脈ビジネス」は今後も必要だ。