中国・北京の中南海懐仁堂前で新型コロナウイルス感染症の犠牲者を追悼し黙祷を捧げる、習近平、李克強をはじめとする中国の国家指導者たち(2020年4月4日、写真:新華社/アフロ)

(安田 峰俊:ルポライター)

 3月中旬以降、全世界で新型コロナウイルスの流行が猛威を振るったのとは対象的に、中国国内での流行はかなり鈍化した。たとえば4月25日の発表では、この日に中国全土で報告された新規感染者は11人で、うち5人が海外からの帰国・入国者の感染者。新たな死亡者や疑い例はなし・・・などとなっている。

 生活の緊張感も徐々に緩んできた。広東省深圳市を例にすれば、現在でも外出時のマスク着用や各地での検温の実施、職場や学校のリモートワークやリモート授業などは継続されているものの、すでに「広東省内」の旅行は解禁された。繁華街には人があふれ、以前の日常がジワジワと戻り始めているように見える。

 いっぽうで3月以降、中国共産党はウイルスを抑え込んだ自国の体制の優秀さを国民向けに強調し、「中国は必ず『双勝利(ふたつの勝利)』ができる」といったプロパガンダを盛んに提唱するようになった。ここでいう「双勝利」とは、ウイルス流行(疫情)の克服と経済復興という2方面作戦をおこなうことだ。

 だが、仮にコロナ禍が比較的早い時期に収束したとしても、今回のパニックが中国に与えた影響ははかりしれない。今回の記事ではそれらをまとめつつ、一足早い「アフターコロナ」の中国の姿を予測していこう。

成長率マイナス6.8%の衝撃

 まず、特筆すべきは2020年第1四半期の中国のGDP成長率が、前年の同時期と比べてマイナス6.8%を記録したことだ。これは1月23日の武漢市の封鎖を皮切りに、2月いっぱいの期間を通じて中国全土の主要都市がほとんどロックダウンかそれに近い状態に置かれたためだろうが、マイナス6.8%は想定以上の数字と言っていい。

 もっとも、GDPの「マイナス成長」という言葉が中国において持つ特別なショッキングさについて、おそらく大多数の日本人は肌感覚として理解できないはずである。

 たとえば日本の場合、もちろん大規模なGDPの落ち込みはインパクトが大きいとはいえ、昨年の第4四半期の消費増税(マイナス6.3%)や、2009年の世界金融危機など、同様の経済後退をごく近い過去に何度も体験済みである。

 そもそも「失われた三十年」の低調な経済環境に慣れた日本人にとって、GDPのゼロ成長やマイナス成長は、未知の大災厄ではなく既視感のある悲劇にとどまる。非常に大変な事態には違いないが、それは大地震の経験と同じく、ある程度は被害規模を想定して心の準備ができる種類の出来事だ。