2019年6月30日、板門店で会談した北朝鮮の金正恩委員長と米国のトランプ大統領(写真:ロイター/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 米国トランプ大統領は、23日(米国東部時間)の会見で、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長(朝鮮労働党委員長)が手術後に重体に陥ったとの情報を米当局が注視しているとのCNNの報道について、「不正確だ」と述べた。韓国政府は、青瓦台の姜(カン)ミンソク報道官が21日、SMSメッセージを通じて「現在のところ北の内部に特異動向は識別されていない」「金委員長の健康不安説に関して確認できる内容はない」と直ちにCNN報道の内容を否定した。

 確かに、北朝鮮の軍の動向などを見ても金正恩の異変を匂わせる動きは感じられない。しかし、これらを額面通りに受け止めていいのか。ここにきて、中国側の中朝関係筋からは、「中国の医師団が北朝鮮に派遣された」との情報が入ってきた。金正恩の健康不安説はますます高まってきたと言える。

現在の北朝鮮の状況下で金正恩氏は2週間も隠れていられない

 韓国政府当局者は、「金正恩氏は江原道元山(ウォンサン)にある別荘に滞在し、非公開の現地指導をするなど正常な活動をしていると承知している」と発言した。

 こうした中、平壌では買い占め騒動が発生し、一部に混乱が起きているという。北朝鮮は、中国で新型コロナウイルスが拡散したのを受け、中国との貿易規制に乗り出し、貿易量は前年同期と比べ、9割減っているという。このため、平壌では輸入食料、調味料、電子製品が大幅に不足し、価格が大幅に上昇しているという。こうした中の買い占めであり、平壌住民の生活に深刻な影響を与えている。

 韓国の政府・与党はしきりに金正恩氏の異変や北朝鮮の異常な状況を否定するが、国会外交統一委員長の尹相現(ユン・サンヒョン)氏(無所属)は21日、「平壌に数日前から突然完全封鎖措置が取られ、私の知っている情報によると、北朝鮮で何かうまく行っていないことが確かにある」と述べている。韓国の見方も一枚岩ではないようである。