事実、アメリカのコロナ禍が深刻化しはじめた3月中旬から、トランプ大統領の中国批判は非常に激烈になった。それのみならず、4月半ばには従来は中国に比較的穏健な接し方をしていたドイツのメルケル首相ですら、中国の情報公開の不透明さに苦言を呈する声明を発表している。イギリスのラーブ外相もメルケルと同様の苦言を呈している。
コロナの原因究明について、米仏独豪などの各国が連携して国際調査を検討しはじめたという話も出ている。中国はオーストラリアの動きに対して激怒し、将来的な中国人観光客の引き上げやワインの不買などをちらつかせて恫喝をはじめているが、コロナ以前の状況とは違ってオーストラリア側もそう簡単には折れないだろう。全地球規模のパンデミックを生んでしまった中国は、全世界からその責任を追及される段階に入りつつある。
報復を呼ぶ「研究所漏洩」説
現在、新型コロナが人工的に作られた生物兵器だと主張するデマはさすがに減ったが、野生生物由来のウイルスがずさんな管理体制の研究所から漏洩したとする説については、トランプがそうした指摘を繰り返し、4月中旬にはNHKがこの疑惑を大きく報じるなどかなりの市民権を得るようになった(ちなみに私は2月24日時点でこの疑惑についてJBpress上で記事にしている。参考:「新型コロナ「バイオ兵器説」の裏に隠された真実とは」)。
もちろん「研究所漏洩説」も、真偽のほどはかなり怪しい。だが、今回のコロナ禍は、アメリカの主観的な感覚では1941年の真珠湾攻撃や2001年の911同時多発テロに匹敵する、アジアの不気味な敵対勢力から自国に対する「理不尽な不意打ち攻撃」に近い(そうした思いは、欧州各国もほぼ同様だろう)。
かつて911テロの「報復」という文脈のなかで、アフガニスタンに加えてイラクまで多国籍軍の攻撃を受けたことがある。今回のコロナ問題についても、ショッキングな被害の犯人探しに躍起になっている世界の世論にとっては、ウイルスの「研究所漏洩説」程度の疑惑であっても、八つ当たり的に報復感情をぶつけて中国をバッシングする口実には充分だともいえる。
さすがに核保有国である中国を相手に、すぐに戦争を仕掛ける国はないだろう。だが、世界規模での中国叩きの流れは強まるはずだ。国内的な経済停滞と政権の危機、さらに国際的に「世界の敵」認定を受けて吊し上げされ・・・と、今後数年間の中国が置かれる環境はかなり厳しいものになる。
来年2021年の中国共産党建党100年と、2022年の冬季北京五輪を、中国は無事に迎えることができるだろうか。コロナの流行からは「一抜け」した中国だが、その前途はかなり多難である。