2018年、中国・広州市では地下鉄の乗車が顔認証で出来るようになった(写真:アフロ)

(山田敏弘:国際ジャーナリスト)

 AI(人工知能)と監視カメラのテクノロジーとを融合させた「顔認証システム」が、いま世界で急速に広がっている。

 監視カメラなどに映った不特定多数の顔の映像から個人を識別するこの技術は、世界各国の警察が有効なテクノロジーとして導入を進めている。犯罪捜査や犯罪抑止の点からは著しい効果が出ている。

 その一方で、今アメリカでは、顔認証システムを巡って集団訴訟が提起され、物議を呼んでいる。顔認証システムが「危険」だと見られているのだ。

 これから5G(第5世代移動通信システム)やIoT(モノのインターネット)、そしてAIの技術がますます発展していく時代に、日本でも本格的に導入される可能性がある顔認証システムについて、一体何が問題となっているのか考察してみたい。

都市部の「天網工程」と地方の「雪亮工程」

 そもそも顔認証システムとは、監視カメラなどで拾われてパソコンなどに入力された人物の写真を、データベースに大量の顔写真を蓄積しているAIのシステムに照会することで、個人を特定するテクノロジーだ。2021年までに世界中に10億台の監視カメラが設置されると言われているが、それには顔認証システムが一緒に使われることになる。使途は主に、強権国家による監視、本人確認業務の自動化、そして警察の捜査である。

 監視のための顔認証はすでに世界各地で導入されている。有名なのは中国である。中国には今、国内に3億5000万台の監視カメラが設置されている。実に国民4人に対して1台の計算になる。さらに2020年のうちに、その数は6億台以上にまで増設される計画だという。

 これらのカメラを駆使し中国政府は、都市部を徹底的に監視する大規模監視システムである「天網工程」や、地方を網羅するシステムの「雪亮工程」を導入している。顔認証技術を提供しているのは、香港が拠点の商湯科技開発(センスタイム)だ。さらに監視カメラの世界シェアでトップクラスを誇る杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)や浙江大華技術(ダーファ)といったメーカーも顔認証プログラムを提供している。