(PanAsiaNews:大塚 智彦)
インドネシア最強の捜査機関の一つとされ国民の信頼と期待を受けていた国家汚職撲滅委員会(KPK)。今から2年半以上前、そのKPKの有力捜査官が、正体不明の男性2人から襲撃を受け、片目を失明するという衝撃的な事件があった。そして2019年12月、ついに容疑者2人が逮捕された。
逮捕された容疑者2人は、なんと現職の警察官だった。
そのこと自体が大きなニュースだが、問題はそれだけではなかった。2年以上に及ぶ「懸命の捜査」(国家警察)でも容疑者を特定できなかったのに、ジョコ・ウィドド大統領から「事件解明をきちんと行え」と迷宮入りを許さない強い姿勢で指示された直後、突然容疑者が逮捕されたこと、さらに2容疑者が立ち会って行われた2020年2月7日の現場検証を警察が一方的にマスコミ非公開としたことなど、通常では考えにくい不自然な展開が多いのだ。
これまで襲撃事件の捜査が長期化する中、「警察官の関与」がささやかれてきてはいた。そして、大統領からの直接指示の後に逮捕された2名は、実際に現職警察官逮だった。だが、逮捕された警察官の、氏名や階級、所属などはなぜか当初は公開されなかった。そんなことから、「2人の警察官は生贄(いけにえ=スケープゴート)ではないか」「逮捕・起訴して無罪ないし有罪判決での早期出所というシナリオがすでに出来上がっているのではないか」といった憶測が飛び交い始めている。
被害に遭ったのは国会議長の汚職事件担当捜査官
襲撃事件のあらましはこうだ。
2017年4月11日、首都ジャカルタ北部クラパガディンで、自宅近くのモスクでの朝の祈りを終えて帰宅途中だったKPK捜査官ノフェル・バスウェダン氏は、バイクに乗って近づいてきた男2人組から、顔面に塩酸のような劇薬をかけられた。
バスウェダン氏はシンガポールの病院に搬送されて治療を受けたが左目を失明する重傷を負った。バスウェダン氏はその後現場に復帰して「隻眼の捜査官」として活躍を続けている。
(参考記事)インドネシア、汚職捜査機関が「骨抜き」の危機に
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57666