1998年に崩壊したスハルト長期独裁政権時代の悪弊とされる「腐敗・汚職・親族主義(KKN)」は、民主化が実現した今も依然としてインドネシア社会には根強く蔓延っている。特にその残滓を色濃く残しているとされるのが、警察などの治安当局や裁判所などの司法当局だ。

 このためインドネシアの国民は、警察、裁判所に対して全幅の信頼を置いていない。だからこそ、KPKによる汚職捜査で現職閣僚、国会議員、地方首長、大使、公営企業幹部らが逮捕されるたびに拍手喝采を送ってきたのだった。

 そうした国民の期待を感じていたジョコ・ウィドド大統領は、2019年7月20日に国家警察に対して襲撃事件の再捜査と犯人逮捕を直接厳命した。それでもめぼしい捜査の進展がなかったことから、同年12月9日にはイドハム・アジズ国家警察長官を大統領官邸に直接呼びつけて捜査状況を質した。

 すると、その直後の12月26日、突然現職警察官2人が襲撃実行犯として逮捕されたというわけだ。

 逮捕は「やはり現職警察官が関与していたのか」と国民やメディアは納得する一方で、「事件の容疑者は3人ではなかったのか」「逮捕時になぜ氏名、階級、所属を伏せたのか」などと新たな疑問が浮上してきている。

現場検証を一切非公開にした警察

 さらに今年2月7日、ジャカルタ首都圏警察による現場検証が、犯行時間と同じ日の出前にバスウェダン氏の自宅近くで容疑者2名の立ち合いのもと行われたが、通常は取材を許可するマスコミを含めて、一切を非公開とした。

 こうした警察の異例な対応について、バスウェダン氏の代理人であるソアル・シアギアン弁護士は地元紙「テンポ」の取材に、「現場検証は証拠を確認するために一般の人を含めて通常は公開で行われる。特にマスコミは取材を許されるのが常識だが、非公開とした警察は何を考えているのか。何か一般市民やマスコミに見られて困ることでもあるのか」と失望と疑問、不信感を露わにした。