裁判で事件の全貌は明らかになるか
バスウェダン氏への襲撃事件の原因とされたe-KTP汚職事件は国会議長が絡んだ大規模な汚職で、警察高官、有力政治家なども関係すると言われている。そのためKPKによる汚職捜査が核心に迫るのを妨害、あるいは阻止しようとする勢力によって、主要捜査官だったバスウェダン氏が襲撃されたものと捉えられている。要は、脅しである。
その他にも同事件では、有力参考人であり、捜査への協力姿勢を示していたインドネシア人ビジネスマンが、米ロサンゼルスで不審死を遂げるなど、不可解な謎が多く残されている。
ただし、逮捕された2名の容疑者については、その後詳細な情報が伝わり出した。逮捕直後には明らかにされなかったが、彼らの名前はロニー・ブギス容疑者とラフマ・カディール・マフレッテ容疑者。ロニー容疑者が劇薬物をバスウェダン氏の顔面にかけた実行犯で、ラフマ容疑者はその共犯であるという。
さらに報道によれば逮捕された容疑者の2警察官はバスウェダン氏を襲った動機について「彼は裏切り者だと思った」と供述しているらしい。
e-KTP汚職事件と直接関わりはないと思われる警察官が、KPKの捜査官をなぜ「裏切り者」と思わなければならないのか、その理由は明らかにされていないが、動機の不自然さは否めず、今後の公判で厳しく追及されることになるだろう。
e-KTP汚職に関する裁判は、ノファント服役囚の他に、内務省高官、仲介者などに有罪判決が下されており、これらで一応幕引きとされている。だが、2人の警察官容疑者の公判を通じ、まだ全貌が明らかになっていない巨額汚職事件の闇の部分がどこまで明らかにされるかも焦点となるだろう。
その一方で、「警察、司法とも早期の有罪判決で裁判を終わらせ、汚職事件と襲撃事件にさっさと幕を下ろそうとしているのではないか」との警戒感が強まっている。
そうした動きに対し、「正義の実現」を強く訴えているジョコ・ウィドド大統領はどう動くのか。いずれにしろインドネシアの警察、司法を巡る闇は依然として暗く、そして深い。これが同国の現実でもある。
(編集部註)掲載当初の記事に一部事実誤認がありましたので、該当部分を削除いたしました。