襲撃犯の2人がバイクで逃走する映像が付近の防犯カメラに残されていたが、夜明け前であることもあり、犯人の人相やバイクのナンバーがわかるほど鮮明ではなかったという。

 実はバスウェダン氏は当時、「インドネシア汚職史上最大級」と言われた総額2兆3000億ルピアが不正に流用されたとされる電子身分証明書(e-KTP)事業に関わる汚職捜査を担当していた。同汚職事件では、国会議長で与党ゴルカル党党首であったスティヤ・ノファントが、後に約730万ドルの収賄容疑で逮捕され、禁固15年の有罪判決を受けて現在服役している。

 このノファント服役囚が逮捕される前、身内などに対し「警察幹部の配慮で自分は逮捕されない」と豪語、警察幹部との「癒着」を吹聴していたことが明らかになっている。

 さらに国家警察は、特別捜査班を編成して「懸命の捜査」を行ったにも関わらず、その後の捜査は全く進展せず、2019年7月に「犯行には3人が関与」と発表したにとどまっていた。発表ではこの「関与したとされる3人」に関して特定もせず、それどころか「KPKの過剰な権力行使による汚職捜査の手法が襲撃事件の遠因となった」と汚職を捜査していたKPKを批判する内容まで盛り込み、捜査の幕引きを図るかのような姿勢を示していた。

 これにはKPK、人権団体、マスコミなどが一斉に反発、「警察関係者が関与しているため事件を闇に葬ろうとしている」などと批判の声を上げていた。

大統領直々に犯人逮捕を厳命

 こうした警察の「幕引きモード」に最も怒りを露わにしたのがジョコ・ウィドド大統領だった。

 KPKはジョコ・ウィドド大統領の母体である最大与党「闘争民主党(PDIP)」の党首でもあるメガワティ・スカルノプトリ第5代大統領が、大統領在籍中に創設した汚職捜査を専門とし、逮捕・公訴権を持つ独立捜査機関である。これまで政財界の巨悪を次々と司法の場に引きずり出し、国民の喝采を浴びてきた。