(山田 敏弘:国際ジャーナリスト)
2019年1月25日、各メディアが一斉に、ロシアのスパイ工作について大々的に報じている。
警視庁は、日本の通信大手ソフトバンクの社員だった荒木豊容疑者(昨年12月に懲戒解雇)が、社内の情報を持ち出してロシア政府関係者に渡していたとして逮捕した。このロシア政府関係者は、在日ロシア通商代表部の職員と元職員(すでに帰国)の2人だという。
当局は、ロシア政府にこの2人を出頭させるよう要請したが、まだ日本にいる通商代表部の職員は外交特権を持っているために、これに応じることはないだろう。つまり、事情を聞くことも、罪に問うこともできない。
「通商代表部」職員が関与した事件の数々
つい先日、『世界のスパイから喰いモノにされる日本』(講談社+α新書)を出版した筆者の目から見れば、今回の一件は典型的なスパイ工作事案だ。
今回改めて明らかになったのは、日本はロシアのスパイからも「喰いモノ」にされているという現実だ。では、そもそもロシアの諜報工作とはどういうものなのか。
在日ロシア通商代表部は、スパイの隠れ蓑になっているケースが少なくない。在日ロシア大使館のホームページによれば、在日ロシア通商代表部は「ロ・日間の貿易経済関連事項やロシアでの駐在事務所開設および合弁会社設立など」に関する情報などを提供する組織で、日本国内でも日ロの経済関係についてのセミナーなどを行っているとされている。彼らの使命は、「国家間の貿易と経済の関係を発展させる」ことだという。
もちろんロシア通商代表部の関係者がすべてスパイ行為に関与しているわけではない。その一方で、日本では過去にも通商代表部にからんだ数々のスパイ事件が起きているのも事実だ。ある警察庁関係者は、「ロシアの諜報部員は、在日のロシア大使館やロシア通商代表部の職員を装ってスパイ工作を行ってきた」と指摘する。彼ら諜報部員は「日本とロシアの経済交流イベントや企業提携などを介して、