1990年代半ばから始まった、いわゆる「苦難の行軍」の大飢饉時代に生まれた世代は、現在20代になっている。「ジャンマダン(市場)世代」と呼ばれる彼らは、北朝鮮当局からの配給を知らずに育った世代でもある。配給が途絶え、親たちが自力で商売をして生活を支える姿を見て来た。同時に彼らは、社会主義体制下で暮らしてはいるが、韓流のCDやDVDを密かに視聴し、頭の中ではすでに資本主義化されている。

 そのため北朝鮮当局は、以前から彼らを中心とする「黄色の風」(資本主義の風潮)を最も警戒してきた。北朝鮮の20代の若者たちはそれ以前の世代に比べて自由奔放だ。配給を受けたことがないため「偉大な領導者」への感謝(?)の気持ちも理解できない。

 こうした不穏な空気を、朝鮮労働党の幹部たちも感じていたのだろう。彼らは以前から北朝鮮版「アラブの春」(2010~2012年ごろにアラブの独裁国家で起こった民主化運動)を憂慮していた。

韓国に流出した理論誌『勤労者』

 最近、韓国の朝鮮日報が朝鮮労働党内の理論誌『勤労者』2019年2月号を入手し、その内容を報道した。『勤労者』は、北朝鮮の幹部らが読む月刊の刊行物で、対外秘であるため、外部に流出することは極めて珍しい。

 報道された『勤労者』の内容は、主にペク・ハクリョン平安北道青年同盟委員長による寄稿の中身だった。

 その文章の中でペク・ハクリョン氏は、「青年たちを無防備に放っておけば(アラブの春のような)想像外の恐ろしいことが起こり得る」、「“アラブの春”によって政権交代の悲劇的事例が連発したのも(中略)主に20代の青年たちが手電話機(携帯電話)を通じて西側のインターネットに接続し、彼らが流す逆宣伝資料を見て、反政府行動に結集したからだ」とし、「青年たちを無防備状態にしたら、恐ろしいことが起きかねないという深刻な教訓を生かしてくれている」と警告した。

 北朝鮮の青年同盟委員会は、若者の思想教育や政治生活を総括する部署だ。この部署の幹部らが「アラブの春」を口にすること自体、青年たちの不満が尋常ではないレベルにあることを告白したも同然だ。北朝鮮の携帯電話はすでに600万台以上。さらに昨年末、労働党中央委員会全員会議で金正恩委員長は、「国家統制力が弱まったのも事実だ」と吐露している。いくら恐怖政治で政権を維持していく独裁国家であろうとも、「北朝鮮の春」は想像すらしたくないだろう。