さらに対外関係からくるプレッシャーも相当なものがある。金委員長は昨年末に豪語したドナルド・トランプ米大統領への「クリスマスプレゼント」も贈ることができなかった。トランプ大統領は最近の国政演説でも、北朝鮮や非核化について一言も言及していない。北朝鮮との非核化に向けた実務協議が、立て続けに物別れに終わると、失望したトランプ大統領は側近たちを通じて、11月の大統領選挙までは第3回米朝会談はしないとまで言っている。アメリカとの交渉を通じて、一刻も早く制裁を解いてもらいたい金正恩委員長にとって、これは途方もなく長い時間だ。

亡命した太永浩元駐英公使が韓国の総選挙に

 このような状況の中、さらに金総書記にとって好ましくないニュースが、ソウルからもたらされた。

 2016年に、駐英北朝鮮大使館公使として在職中に韓国に亡命した太永浩(テ・ヨンホ)氏が、最近になって最大野党・自由韓国党に入党し、4月の国会議員総選挙に出馬するというのだ。自由韓国党の指導部は、太氏をソウルの富裕層が住む新都心の江南甲選挙区から出馬させようとしている。高位級の脱北者で、比例代表ではなく選挙区から立候補するのは初めてのケースになる。

 太氏は出馬表明会見で、「私が大韓民国の小選挙区から国会議員に当選したら、北朝鮮の体制維持の中核を担っているエリートや、世界各国で勤務する北朝鮮の外交官たち、さらには自由を求める北朝鮮の善良な市民らは、希望を超えて確信を持つことになるだろう」とし、「不幸にも(韓国の)現在の対北政策と統一政策はとんでもない方向に流れている」と述べた。

 北朝鮮の党幹部たちは以前、第三国で会った脱北者らに「太永浩・元公使は韓国で元気か」と尋ねたという。「北朝鮮の高位亡命者は韓国でよい待遇を受けて、元気でやっているのか」という意味の質問なのだ。今回の太永浩氏の出馬の弁(発言)は、北朝鮮のエリート幹部らに明確なメッセージを送っている。

 以前から、北朝鮮の軍幹部は、有事が起きて北朝鮮が韓国に吸収統一でもされるようなことになった場合、自分たちの安危と職責はどうなるのか、ということに強い関心を示していたという。太氏は自分が当選すれば、北朝鮮幹部らに「亡命しても韓国社会で成功できると示せれば、統一されても安心できるという確信を彼らに与えることができるだろう」と話したのだ。

 このような動きの一つひとつが、金委員長にとって重くのしかかっている。体制の揺らぎは、即座に自らの生命の危機に繋がることを痛いほど感じているからだ。

 果たして「平壌の春」は現実のものとなるのか。三重四重の監視体制の下で北朝鮮の市民が民主化運動に立ち上がるのは容易ではないだろう。それでも、市民の不満と不信の高まりをひしひしと感じている金委員長は、国営メディアを通じて見せる尊大な態度とは裏腹に、心臓が縮み上がるような思いをしながら日々を過ごしているに違いない。