フタル酸エステル類は、壁紙、床材、テーブルクロス、子供用玩具などに広く使われている。揮発性が低いため、室内空気中に放散されるだけでなく、室内ダストにも付着する(注3)。乳幼児などがいる場合は、床の上を這うことで、手に付着したダストを口から取り込んでしまうリスクもある。実際、フタル酸エステル類がアレルギーのリスクを上げ、その影響は大人より子供で顕著であるという研究報告も出ている(注4)。

(注3)東賢一、臨床環境医学、26巻2号、2016
(注4)Ait Bamai et al., STOTEN 2014、Araki et al., Indoor Air 2014

カビ・ダニ由来の汚染物質も

 もう1つ、近年、注目されているのが、カビやダニなどによる室内空気汚染だ。室内に発生する細菌やカビなどの微生物は、増殖の過程で室内の有機物質を分解し、アルコール類やケトン類、カビ臭を生み出す揮発性有機化合物をつくり出す。「こうした微生物由来揮発性有機化合物を、MVOC(Microbial Volatile Organic Compounds)と言い、MVOCが原因のアレルギー性疾患やシックハウス症候群の患者数も増加傾向にあります」(坂部教授)。

 MVOCは150 種類以上も存在すると言われる。直接的な影響のメカニズムについては不明な点が多いものの、これらの室内空気中濃度が子供のぜんそく症状や、アレルギー性鼻炎の発症率に関与するという研究報告がある(注5)。

(注5)鍵直樹、保健医療科学、63巻4号、2014

 せっかく友達や親せきが我が家に遊びに来てくれたのに、くしゃみや目の痛みを訴えられてしまったなどという事態は、避けたいもの。私たちの健康を再び脅かし始めているシックハウス症候群を予防し、室内の空気をきれいに保つためには、どんな対策をしていけばいいのだろうか? 後編で、詳しくレポートしていこう。