社員が活き活きと働ける環境を作ることで、会社を発展させる──。働き方改革の重要性が指摘されるようになるはるか以前から、そんな挑戦を続けている企業がある。住友電工、古河電工と並び電線御三家の一角を成す、老舗非鉄金属メーカー、フジクラだ。同社CHO(チーフ・ヘルス・オフィサー)補佐の浅野健一郎さんに、健康経営への取り組みについて聞いた。(取材・文/新村 直子)
現場から部課長クラスを引き抜いてスタート
東京・木場に本社を置く電線大手のフジクラは、2017年から2年連続で、経済産業省と日本健康会議が認定する「健康経営優良法人~ホワイト500~」に選出され、2018年には経済産業省と東京証券取引所が認定する事業、「健康経営銘柄」にも選出された。今や、働きやすさの代名詞ともいえる“ホワイト企業”のお墨付きを得て、近年、就活学生やその親世代にその名が少しずつ知られるようになってきた。
健康経営銘柄に選出されたのは、ウェブを活用した社員の健康管理システムの導入や、ウォーキングイベント、自転車通勤を奨励するプロジェクトなど、社員の心身の活性化に向けて取り組んできた様々な健康増進プロジェクトを評価されてのこと。
同社が健康経営に注力し始めたきっかけは、8年前に遡る。当時の社長から、中堅・若手社員が中心となって次の事業計画の基礎となる提案を答申せよという指令が下った。そこに向けて集められたメンバーが中心となり、「元気プロジェクト」が立ち上がったのだ。
「2009年はリーマンショックなどの影響もあり、将来を見通しにくい時代でした。もはや直線的な延長に発展はない、じゃあどこに向かうのかということで、様々な議論をした。その中で、成長戦略を描くとなると、前例踏襲ではないチャレンジングな計画にどうしても行き着いてしまいます。しかし、実際にこのチャレンジングな計画を実行するのは、社員一人ひとりです。答申後、これらの提案を実現するには、社員が元気でなければ、実現できないということで意見が一致し、新たに元気プロジェクトが始まりました」
こう振り返るのは、元気プロジェクト時代から社員の健康づくりに取り組んできたCHO補佐の浅野健一郎さんだ。元気プロジェクトはアンオフィシャルなプロジェクトだったが、経営幹部もメンバーの発想を理解し、コーポレート企画室に4人の専属メンバーを置いたのが2011年。どんな成果が挙がるのか、まったく読めない段階で、現場から部課長クラスを引き抜いて配置した“英断”だった。
社員の健康づくりに本気で動き出した2014年度から、同社の業績は堅調に伸びている。2017年度の売上高は、2014年度比で11.9%増の7400億円に、経常利益に至っては同62.4%増の341億円を記録した。業績の向上は、直接的にはもちろん製品やサービスの力によるところが大きいが、浅野さんは「健康経営に取り組んだことの効果も表れている」と見る。個々の社員が健康的に元気に働くことが組織の活力を生み出し、会社の業績向上につながっているというわけだ。