「従業員」には傭兵もいた。いざとなればソマリアに「短期間であれば、72時間以内に500人を派遣することができる」と豪語していたほどだ。中には簡単に人殺しをする者もいた。そんな傭兵を使って、裏切った者、より正確には自分を裏切ったと思いこんだ者だ、を平気で傷つけ、殺そうとした。

 そのようにして命を狙われた元側近のクローセンがル・ルーに復讐を決意する。そして、クローセンをおとりにしたル・ルー逮捕プロジェクトが始動した。エサはもちろん麻薬だ。慎重きわまるル・ルーをいかにして出し抜くのか。なるほど、本場の麻薬おとり捜査というのはここまで綿密に仕組まれているのか。手に汗握るサスペンスだ。

 そこで話は終わる。という訳ではない。逮捕されたル・ルーはどのような行動をとったのか。裁判で何を証言したのか。そして、これからどうなるのか。それは読んでのお楽しみだ。

舌を巻く著者の腕前

 作者のラトリフの綿密な取材対象には、簡単に人を殺すような奴もいた。文字通り命がけだ。なんといってもル・ルーの正体は闇の中だった。ジグソーパズルのような、と言いたいところだが、どう考えてももっと複雑なパズル、ピースがどこに隠されているかすらわからないようなジグソーパズルを着実に解いていったその腕前には舌を巻く。

 ル・ルーの犯罪が発覚するきっかけになったのは、麻薬捜査官たちがオンライン薬局の不自然さに気づいたからだ。ラトリフによると、気づくのもう少しが遅れていたら、闇社会に紛れ込んでしまったル・ルーの姿を捉えることができなくなっていた可能性があるという。おとり捜査だけでなく、米国の麻薬犯に対する戦略は信じられないくらいすごい。

 フィクションでこんな話を書かれても、あまりに荒唐無稽で誰も信じないだろう。しかし、まごうことなき真実なのである。ル・ルーを題材にしたドラマが、『アベンジャーズ』のルッソ兄弟によってドラマ化されるという。どれだけ面白い作品になるだろう。待ちきれない人は、『The making of a criminal mastermind, The Big Boss: A 21st Century Criminal, Part 1 』と『The fall of a criminal mastermind, The Big Boss: A 21st Century Criminal, Part 2』がオススメだ。ここでは邪悪なル・ルーの姿を拝むことができる。

 この本、ル・ルーの犯罪、麻薬捜査、そして、すぐれたノンフィクション取材、三つそれぞれの観点からだけでも十分に楽しむことができる。それが三位一体で啓示されるのだ。いやはや、こんなすごいノンフィクションがありえるとは。これを超弩級ノンフィクションと呼ばずして何をそう呼ぶのか。素晴らしいノンフィクションをありがとう。命懸けで本書をまとめあげたラトリフにお礼を言いたい。

写真は早川書房から提供いただきました。