本当に読むに値する「おすすめ本」を紹介する書評サイト「HONZ」から選りすぐりの記事をお届けします。

(文:吉村 博光)

 DNA鑑定と聞いて私がまず連想したのは、テレビドラマの犯罪捜査のシーンだ。「トレース」や「アンナチュラル」など、最近、その手のドラマをよく見かける。まるで水戸黄門の印籠のように、クライマックスでDNA鑑定結果と真実が提示される。

 本書は、著者が手がけてきたDNA鑑定を紹介するだけでなく、「DNA」「染色体」「遺伝子」「ゲノム」といった言葉の使い分け方など、基礎的な知識も盛り込まれている。楽しく読める入門書だ。無論、上記のような犯罪捜査に関する記述にも1章を割いている。

 その章には、足利事件などの実例も挙げられており興味がある方はそこだけ読んでも面白いだろう。またそこには、ドラマではわからない科捜研の意外な実情も記されている。科警研の力関係や、科学捜査できる範囲の制約などについてである。

ドラマのような自由はないけれど

“科捜研におけるDNA鑑定は、核DNAのSTRを判定する米国ABI社製のSTR判定キット(商品名は「アイデンティファイラー」)を主として用いている。(中略)言い換えれば、科警研が科捜研に使用を認めているのはこれらのキットだけであり、科捜研はミトコンドリアDNAなどは鑑定することができない。 ~本書第7章「犯罪捜査とDNA鑑定」より”

 容易に想像できることだが捜査の確度をあげるため、上部組織である科警研の方針は「無理をするな」である。そのため、科捜研にはドラマのような自由はないそうなのだ。著者は、科捜研にもっと自由を与えたらどうか、と本書で提案している。各都道府県の科捜研には、世界最高レベルの実力があるという。

 もし、今度ドラマで科捜研のカッコイイ犯罪捜査シーンに出くわしたら、ヨコで観ている子供たちにこの辺の薀蓄を披露してやりたい。嫌われるだろうなぁ。でも、FACT教育の一環である。心を鬼にしなければ。って、そこまで力むこともないか。