曺氏に対する国会の聴聞会では曺氏任命に賛成する報告書は出ていない。しかし、これまで文氏は16の閣僚級任命について国会の同意なしに行っている。しかも、現在与党は国会で過半数を有していない。これができるのは、一つには韓国大統領は、国会に出席を求められていないためである。文政権は国の3権を掌握し、言論もうかつには批判できない。このため、思うままに国政が動かせるわけである。

 しかし、政権が一旦弱みを見せれば、これまで沈黙していた反対派の声が大きくなり、政権は弱体化する。これを防ぐためには、あくまでも強気の姿勢を示しておく必要があるということである。

 曺国氏の任命は、文在寅氏にとって大きな賭けである。仮に、曺国氏の違法行為が明らかとなり、逮捕、訴追されることになれば、文氏への打撃は計り知れない。これからも検察と政権の攻防は続くだろう。

文在寅大統領への支持率は回復傾向

 われわれ日本人にとって不可解な第二点は、これだけ疑惑の多い人物を法相に起用し、連日国内マスコミでもそのスキャンダルが大々的に報じられながらも、文在寅大統領の支持率が回復傾向を示している点だ。

 曺氏の任命後も、その疑惑の水準はますます高まっており、韓国国内の報道を見ると、その疑惑は妻に対するものから明らかに曺氏本人に対するものに変わりつつある。それにもかかわらず、9月23~25日に世論調査機関リアルメーターが実施した世論調査では、文大統領に対する肯定的評価が先週に比べ3.3%上がって48.5%、否定的評価が2.7%下落した49.3%だったという。

 リアルメーターはこの変化の要因について、曺国氏の自宅に対する11時間の家宅捜索はやりすぎとの批判、文大統領の国連での平和外交などを挙げている。

 しかし、家宅捜索が長引いたのは、曺一家の証拠隠ぺい工作があったためとも言われているし、国連での外交はそれほど成果があったとは考えられない。

 そもそも、韓国では国民の40%がそれぞれ堅い革新層と保守層に分かれ、浮動層は20%と言われる。その見方に倣えば、残り20%の浮き沈みで判断すべきで、文政権の支持率が依然40%を維持していても、40%ぎりぎりでは浮動層はすでに支持していないと判断することもできる。

 それにしても支持率が回復したというのは謎である。韓国の世論調査は、年代によって革新、保守の支持が分かれるので、保守を支持する高年齢層の人が調査機関からの電話を受けても丁重に断るようである。しかも調査に対する回答率も政権に近い方が高いという。また、現在の政局は政権対検察、革新対保守の対決になっているため、革新系の形勢が悪いとなると、革新系がより団結するという側面もある。

「検察による捜査のやりすぎ」を批判したかった政権側にとっては、このような調査結果が出ることを望んでいたのは間違いない。いずれにせよこれまでの韓国の世論調査を見ていると、政権が望んでいる結果となっている。曺国氏を任命する前、任命の可否を問う世論調査が僅差になったこともあった。

 実際、こうした国内の世論調査の結果に、文政権は勢いづけられているようだ。

 文大統領は国連総会からの帰国後、「検察が何の干渉も受けず全検察力を傾けて厳正に捜査しているにもかかわらず、検察改革を要求する声が高まっている現実を、検察は省察するように願う」とのコメントを発表し、検察の動きを強くけん制した。

 これを受け28日午後、主催者発表で80万人の曺国支持集会が開かれた。参加者たちは全国各地から観光バスをチャーターして集まってきたというから、おそらく各地で支持者が動員されたのだろう。文大統領のコメントが「動員力」を強めたに違いない。

 今後、検察の捜査に危機感を覚えた政権側の反撃が始まってくる。そうなれば、世論調査の結果もさらにその動きを反映したものになって来るだろう。ただそれが、韓国世論の平均値とズレがある可能性があることを、われわれ日本人は認識しておいた方がよいだろう。