私の持論ですが、社会をよりよくしていくためには、自ら動き出す「始動者」が必要です。かつての日本にはそうした人材が豊富にいましたが、現代の日本社会を見渡したときに、そういう人々が見当たりません。それは、子育て・教育の課程で「危ないことは止めなさい」と言われ続けて来たため、みんながみんな安定志向になってしまった結果ではないでしょうか。このままでは、さまざまな構造的危機の存在を気付きながらも、その現実から目を逸らし、改革のために大きなチャレンジをしようなどと思わない人々でこの国はあふれかえってしまうかも知れません。政権にチャレンジを求めないようなムードが、その懸念を裏付けています。これは非常に憂慮すべき事態です。

ジム・ロジャーズが語った「成功のカギ」

 先日、私の友人が、来日していた世界的投資家ジム・ロジャーズに会う機会を得たそうです。そこでジム・ロジャーズが「自分が受けた教育で一番役に立ったもの」について披露したというエピソードが印象的でした。

 世界でも指折りのエリート学校を卒業しても没落する人もいる。おそらくエリート校の卒業生の半分くらいはエリートの道から外れてしまっているだろう。自分自身もよい教育機関で学ぶことができたが、それが自分の成功のカギだったとは思っていない。自分にとっての一番の成功のカギは、アラバマの貧しい家に生まれ、貧困と死の恐怖に常にさらされていた経験だ。私はいつも貧しさと恐怖に震えていた。その原体験がなければ今の自分は存在しないし、それがもっともよい先生だった――。

 そういう不安定な状況が、逆境に挑戦する心を育み、それが成功へのカギとなるのです。

 国家の運営に安定・安全は重要ですが、現在は、国民が過度にそれを求めすぎているのではないでしょうか。それでは中長期的には国の衰退につながってしまいます。国全体が「ゆでガエル」になる前に、大胆にチャレンジする気概を取り戻さなくてはならないと強く感じます。