2019年5月18日、1980年に民主化運動を韓国軍が武力弾圧した「光州事件」の犠牲者追悼式で演説する文在寅大統領(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

文在寅政権が誕生して以来、韓国は、日本との関係ばかりか、アメリカとの関係もギクシャクし始めた。その文在寅氏が熱心だったのは、北朝鮮との関係構築だったが、米朝首脳会談が不調に終わった北朝鮮からは、もはや「仲介役」としての役目は期待されていない。外交に活路を全く見いだせなくなっているように見える韓国はいったいどこに向かっているのか。田原総一朗氏による、元在大韓民国特命全権大使・武藤正敏氏のインタビュー第3弾。(構成:阿部 崇、撮影[田原氏、武藤氏]:NOJYO<高木俊幸写真事務所>​)

<第1回:朴槿恵・前大統領はなぜあれほど攻撃されたのか
 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56428

 第2回慰安婦問題の解決を阻んでいるのは誰だ
 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56430 

「国のかたち」を急速に変容させる文在寅政権

田原 昨年11月、韓国海軍が海上自衛隊の哨戒機にレーダー照射する事件があって、大騒ぎになりました。あの一件、武藤さんはどう見ていました。

武藤 いろんな説がありました。あの時、あの付近に北朝鮮の漁船が来ていて瀬取りをしていたんだとか、北朝鮮の船はスパイ船だったとか・・・。真相は分かりませんが、いずれにしても何か露見しては都合の悪い状況を隠すために照射したんじゃないかと思います。

田原 どこに国でもそうだけど、軍事的衝突になりそうな行動については、政府よりも軍の方が慎重なものですけどね。

田原総一朗:東京12チャンネル(現テレビ東京)を経てジャーナリストに。『朝まで生テレビ』(テレビ朝日)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)などに出演する傍ら、活字媒体での連載も多数。

武藤 韓国ではいま、政府と軍の関係が変わってきているんです。朴槿恵政権までは、青瓦台の秘書室長が合同参謀本部議長を呼びつけて、国防部内の人事に口を挟もうとするものなら、「出しゃばりすぎだ」と批判されてきました。

 ところが今は、青瓦台の局長にもなっていない人間が、国防部の幹部を呼びつけて、あれこれと人事の話をしていると言います。

武藤正敏:外交経済評論家。元在大韓民国特命全権大使。横浜国立大学卒業後、外務省入省。アジア局北東アジア課長、在オーストラリア日本大使館公使、在ホノルル総領事、在クウェート特命全権大使などを歴任ののち、2010年、在大韓民国特命全権大使に就任。2012年退任。著書に『日韓対立の真相』、『韓国の大誤算』、『韓国人に生まれなくてよかった』(以上、悟空出版)、『「反日・親北」の韓国 はや制裁対象!』(李相哲氏との共著、WAC BUNKO)がある。

田原 そんな関係になっちゃったんだ。

武藤 国防部はもう完全に青瓦台の影響下に入っちゃっているんですよ。

 だけど文在寅政権になって以降、変わってきているのはそれだけじゃないんです。いま政権中枢では、閣僚や青瓦台の主要ポストに学生時代に民主化運動に関わった人を多く起用するようになっています。中には逮捕歴がある人もいます。そうした進歩的な政治思想を持った人たちが、政権中枢に入り込み、さまざまな部門をがっちり握り始めているんです。

 その人たちが中心になって進めているのが、国家情報院、そして警察・検察といった統治機構の要となる情報機関、捜査機関の権限を縮小する構造改革なのです。改革を進めている人たちは、自分や同志が軍事政権下で逮捕されたり弾圧されたりした経験を持っていますから、そもそも国家権力に良い感情を抱いていません。その彼らが中心となり、軍や捜査機関、情報機関の組織改革、任務改革を大々的に進めているわけで、韓国という国家はいま「国のかたち」をすごい勢いで変容させているのです。