ストリートチルドレンと売春婦の少年少女という設定ありきで架空の物語を紡ごうとした前回とは違い、ただ目の前の少年が見知らぬ祖国でたどった感情の変遷を知りたい一心だった。

目指したのは究極のホームビデオ

 2014年11月、撮影が始まったが、少年が葛藤を乗り越えたきっかけをいまだにつかめずにいた藤元さんは、突飛な方法を採ることにした。

 徹底的にリアリティにこだわり、一家の経験を丹念にたどりながら「究極のホームビデオ」のような映像を撮ることで、少年の葛藤と克服の瞬間をカメラの前で再現しようと考えたのだ。

 まず、一家を演じる4人を事前に1か月間、同じアパートで寝泊まりさせた。本当の家族のような雰囲気を醸成するためだ。

 また、現実の世界とカメラが回っている世界を分けないよう、「スタート」「カット」「おつかれさま」といった言葉を、一切、禁止した。

 撮影現場に入るのも藤元さんとカメラマン、音声の3人に限定するという徹底ぶりで、4人が撮られていることを意識しなくなり、自然なやり取りが交わされるようになるまで2時間近くカメラを回し続けたこともあった。

 さらに、一家が直に見たり聞いたりした以外の情報や、背景説明のための台詞も排除した。

 実際、彼らが日本に来た理由や、申請が認められない理由、そもそも彼らが難民かどうかは最後まで明らかにされないうえ、日本の外国人労働者受け入れ制度の詳細や、国際的に注目を集めているミャンマーの少数民族問題も、ほとんど描かれない。

 こだわりの背景には、ある信念があった。

 「映画館で映画を見てもらうのは、登場人物と限りなく同じ時間を過ごしてもらうのと同じ」だと藤元さんは語る。