(武藤正敏・元在韓国特命全権大使)
北朝鮮の崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官は3月15日、一部の海外メディアや外交官を集めた会見で、「われわれはいかなる形でも米国の要求に譲歩する気はないし、そのような交渉には関わりたくない」と述べた。さらに、ミサイルや「人工衛星」を再び発射する可能性について、「実験の猶予を続けるかどうかは金委員長の判断次第。近く決定するであろう」と述べ、非核化交渉に関する声明を近く発表すると明らかにした。
北朝鮮は中、ロ、国連大使を急きょ平壌に呼び戻しているので、今後の交渉への対応ぶりについて真剣に検討していることは間違いないであろう。
文在寅大統領の「勘違い」
文大統領が、この会見のニュースを聞いたのは、東南アジアを歴訪し、カンボディア首相との首脳会談中であった。文大統領は北朝鮮とも国交のある東南アジア諸国を回り、北朝鮮への働きかけを促していたのであろう。帰国後、文大統領は国家安保室から報告を受け、協議を行ったが、これを踏まえた大統領府関係者の反応は、「今度は南北間で対話する順番」であり、「われわれに渡されたバトンをどう活用するか悩んでいる」と述べ、あくまでも北朝鮮との仲介役にこだわる姿勢を示している。
しかし、冒頭の会見で崔次官は、「文大統領は朝米対話のため苦労しているが、南朝鮮は米国の同盟者であって、『仲裁者』ではない」と語り、文政権が仲介役を果たすことに否定的な立場を示しており、韓国の片思いぶりが鮮明になっている。
南北朝鮮の考えに溝が生じている最大の原因は、文大統領の「勘違い」にある。文大統領は、金正恩国務委員長の味方をし、代弁をすれば、米朝間の仲介者となって、「新朝鮮半島体制」の主役になれると考えている節がある。