こうした状況にも拘わらず、韓国の北朝鮮に対するアプローチには全く変化が見られないどころか、会談決裂の責めを米国側に着せるなど、米韓の亀裂は一層深まっている。文大統領は会談後も、北朝鮮が寧辺の核施設廃棄に言及したことを受け、「北朝鮮の非核化は不可逆的になった」と評価している。文大統領がこのように評価したのには、国内政治的要因がないわけではない。米朝交渉決裂となれば文大統領の支持率は大きく下がりかねない。
北朝鮮は南北交流事業もさほど評価していない
内心大いに焦っていたのだろう。米朝首脳会談決裂の翌日となる3月1日、文大統領は、「金剛山観光と開城工業団地事業再開案も米国と協議する」と述べた。だが、それから6日後の3月7日、米国国務省当局者(次官補クラス)は、北朝鮮・東倉里のミサイル発射場に関連する質疑で、ある記者から「金剛山観光と開城工業団地再開に関する制裁解除を検討しているか」との質問を受け、即座に『ノー』と一蹴している。
北朝鮮との関係促進を諦められない文大統領の北朝鮮観は、国際社会の北朝鮮に対する評価と全く異なっている。そのことが文大統領の国際的孤立をどんどん際立たせ始めているのだ。
そもそも、米朝首脳会談で北朝鮮は南北交流事業に強い思いれは示していない。両交流事業が廃止される前に、北朝鮮に渡っていた現金は1億5千万ドル程度であり、北朝鮮が制裁解除で得ようとしている数十億ドルとは大きな隔たりがある。それもあってか、開城工業団地にある南北事務所の所長会議は、北朝鮮側が出席しないために米朝首脳会談からおよそ3週間が過ぎた現在も開催されていない。それでも、文大統領の南北交流事業への思いれは強く、3月8日には、統一部長官に南北交流事業の推進派で「制裁無用論」を展開してきた金錬鉄(キム・ヨンチョル)氏を指名した。同氏は、直前に北京で国連軍司令部の解体について議論してきた人物である。
北朝鮮がそれほど強く求めていない南北交流事業を、米国の反対があっても強行したいとの姿勢は、文在寅大統領の頑なな姿勢の表れである。しかし、こうした一方的な思い込みによって、文在寅大統領はますます孤立化の道を歩んでいるように思われる。
米国の北朝鮮制裁決意は固まった
米国が一方的に制裁緩和は行わないとの意思は、米国務省のビーガン北朝鮮担当特別代表が、「完全な非核化が実現してこそ制裁を解除できるという共感が米政府内に形成された」と指摘していることから明らかである。会談前には「交渉派」と目されていた同氏の柔軟な姿勢からは様変わりである。
米朝首脳会談での対立点は、米国の主張する生物化学兵器を含めた非核化(ビッグディール)と、寧辺核施設の廃棄と制裁の一部緩和の取引(スモールディール)のどちらを取るかであった。韓国大統領府幹部は17日、緊急記者会見を開き、米国による北朝鮮との「ビッグディール」を受けた動きと関連し、「米国は『全部でなければ全無』との戦略だがこれは見直すべきだ」と反論した。十分に良好な合意を形成する努力が必要である、ということのようだ。
米朝の交渉スタンスは首脳会談以降、明らかに変化している。しかし、相変わらず変わらないのが文政権の非核化への取り組みである。米国は、「今安易な制裁緩和を行うことは北朝鮮の非核化努力を損なうものである」と考えている。しかし、韓国が進めようとする南北事業は制裁の緩和が前提である。
国連安保理の対北朝鮮制裁委員会専門家パネル報告書では、韓国政府が昨年、北朝鮮の開城に連絡事務所を設置して石油を搬出したことについて、制裁違反の可能性を指摘している。今後、南北の交流事業を行う場合にはより大規模な制裁緩和が必要である。