韓国にとって最大の悪夢は、北朝鮮が2017年のように核やミサイル実験による挑発を再開し、韓国が再び戦争の脅威におびえるようになることである。そのためにも、北朝鮮との対話を継続しておこうとする考えには共感する。北朝鮮の金正恩氏が行っている交渉術は、瀬戸際戦術というものである。しかし、北朝鮮は以前のように核戦争も辞さないような姿勢には見えない。トランプ大統領の確固たる姿勢に押され、金正恩氏は主要国の大使を呼び戻し、今後の交渉戦術の再点検を行おうとしているところである。

 こうした時期に韓国だけが、北朝鮮が期待していない交流事業などを持ち出し、交渉を混乱させることは誰のメリットにもならない。

 米朝首脳会談後に、米国のペロシ下院議長は「金委員長が提案した小さなことに対し、トランプ大統領が何も与えなかったのは素晴らしいこと」とコメントした。米国では、与野党を問わず北朝鮮に対する確固たる姿勢が決まっている時に、これを乱すような文大統領の言動は、米国との信頼関係を一層失わせる元であり、それは金正恩委員長にとっても韓国の価値を下げる元になる。

北朝鮮はロシアに寄り添い始めている?

 冒頭に紹介した北朝鮮の崔善姫外務次官の会見は一部の外国メディアを対象に開かれたものだが、その内容を大きく報じたのが、ロシアのタス通信であった。米朝の決裂以降、北朝鮮はロシアにより近づいているように思う。ハノイからの帰途、「金正恩委員長は北京に立ち寄り習近平中国国家主席に会談結果を報告するのではないか」との観測があったが、北朝鮮に直行した。中国側からすれば、全人代の開催時期に当たり多忙であったことは否定しないが、米中の貿易協議を控え、米国と決裂した北朝鮮とは距離を置きたいとの考えがあったことも事実であろう。そうであれば、北朝鮮としてはロシアとの関係により力を入れていくことになろう。

韓国はもっと戦略的に外交を考えるべき

 ちなみに、韓国は、今pm2.5の被害が深刻である。文大統領はソウル市、仁川市の空気の悪化の原因が中国にも相当あるとして、「中国との協力案を準備せよ」と指示したが、中国外務省の報道局長は「科学的根拠を示せ」と要求を一蹴した由である。韓国としては北朝鮮との関係上、中国とはことを構えたくないのであろうが、韓国が希望すれば応じてくる国ではないことはTHAADを巡る対立で学習したのではないか。外国を非難する時には、きちんと根拠を準備し、反論していくべきであるが、それができないところに現実離れした思い込み外交の弊害が表れているように思う。

 文在寅大統領はもともと地政学で外交を判断するよりは、自己の考えに陶酔する傾向にある。しかし、北朝鮮を巡る周辺大国間の関係は確実に変化している。それに応じて韓国の対応を変えていかなければ、韓国はますます孤立し井の中の蛙となろう。